『ダーウィン事変』”ヒューマンジー”の人間社会での共生と対立を描く
ある研究所から半分ヒトで半分チンパンジー、通称”ヒューマンジー”と呼ばれる生物が発見された。「チャーリー」と名付けられた彼はチンパンジー以上の腕力と、人間以上の知能を持っていた。
第1話より ©うめざわしゅん/講談社
『パンティストッキングのような空の下』の作者、うめざわしゅん先生の最新作『ダーウィン事変』では、そんな”ヒューマンジー”の人間社会での暮らしと、その先に待っていた対立を描く。
そのセンセーショナルな言葉や物語は国内マンガ賞に多数ノミネートされただけでなく、海外でも大反響を呼んだ。「君もボクも全ての動物はただの1(ONE)だよ」彼ならではの言葉の数々に脳が刺激されるのではないだろうか。
過激派テロ組織「動物解放同盟(ALA)」
「過激派ヴィーガン」(一般的なヴィーガンとは異なる)である彼らは「すべての動物の平等な権利のために」動物の解放を目指している。しかし近年、彼らは活動を激化させ、各地でテロを起こしていた。ついには肉を提供する飲食店を爆破し、死傷者までもが出てしまう。
実験動物の解放のための生物学研究所襲撃時に、ALAによって”ヒューマンジー”が発見、救助されたという経緯や、チャーリー自身が育ての親の影響でヴィーガンであることからその関与を疑われてしまうようになる。
そしてALAも、彼を仲間に引き入れようと画策を始める。言葉を喋らぬ動物たちの代表やシンボルとして彼はうってつけの存在だったのだ。そんなことは露知らず暮らすチャーリーの周りに徐々にその影が忍び寄る。
チャーリーと接する温かい人々
育ての親から「普通の人間」と変わらない愛を受け育ったチャーリーは、晴れて高校へと通うことに。学校の内外で彼に向けられる視線には好意的なものばかりでなく、奇異なものを見る目や中には敵意も混ざっていた。
「ヒトではないもの」として彼を見つめる者たちを特に気にすることもなく生活するチャーリーだが、そんな中一人の少女・ルーシーと出会い「人間の友人」ができる。”ヒト”と”ヒューマンジー”、互いの違いには戸惑うこともありつつも、学校生活はより楽しいものになっていった。
”ヒト”と”ヒューマンジー”として、ではなく対等な1人の存在として接し絆を深めていく彼らだったが、一方でそんな当たり前の生活を続けていくには心理的ハードルだけでなく、社会的な障壁もまだまだあることが浮き彫りになっていく。生きていく上で不可欠な「権利」を求めていくことになる。
哲学的な言葉、ハッと立ち止まって考える
自らの考えを一貫して生きるチャーリーは時折多くの人にとって驚くような言葉を述べるが、何も間違ったことは言っていない。自分はこれまで同じ考え方をしたことがあっただろうかと思わず読む手を止める瞬間がある。
彼の家族やルーシー、級友、街の人々、テロ組織のメンバーもそれぞれの立場で自分の信念や考えを語る。一方から見て行き過ぎた理不尽な考えであっても、それはその人にとっての確かな正義と言える。
「自分だったら」そう考えるとき、どの立場で何を思うだろうか。そしてそこにヒトでありチンパンジーである彼の存在が異色な存在として入りこむ。新しい立場の存在が現れたことで、今まで思い至らなかったような思考の扉が開いていく。
”ヒューマンジー”を通して、読者の価値観に問いかける衝撃作を読み、何を思うのか自らで体験してほしい。