世界を買えるカネを寄こせ! 強い欲望が“力”を生み出す!『ハイパーインフレーション』
経済学において、物価の過度な上昇により通貨価値が暴落する現象のことを『ハイパーインフレーション』と呼ぶ。
本作は、奴隷狩り、両親の死、最愛の姉のオークション出品と、度重なる絶望の果てに主人公ルークがある“力”を手にすることで始まる物語。突如得た“体からカネを生み出す力”で、物語は一気に『加速=インフレ』する!
神より授かった特別な力
主人公は、ヴィクトニア帝国による奴隷狩りで両親を失ったガブール人の少年、ルーク。大商人グレシャムが手引きする奴隷狩りで、ルークは捕虜に、最愛の姉ハルはオークションに出品されることとなった。絶望のドン底で、ルークはガブール神より特別な“力”を授かる。それは、体から帝国の紙幣を大量に生み出せる、危険すぎる“力”だったのだ。
代償として、生殖能力を失ったルーク。そしてその紙幣は全て同じ番号の贋札であることが判明する。途方に暮れるルークであったが、すぐに持ち前の機転を利かせて“力”の使い方を模索した。そして、これらの贋札を使い、次々に降りかかる問題を巧妙に解決していくのであった。
こうして、突如“体から贋札を生み出す力”を得たルークは、最愛の姉ハルを取り返すべく奮闘する。『ハイパーインフレーション』はそんなルークの“力”を使い、世界中を巻き込む戦いを描いた誰も見たことが無い頭脳バトルマンガだ。
シリアスな設定に映えるシュールギャグ
本作の魅力の一つである、作品内に散りばめられたシュールさにも注目したい。ルークに降りかかる問題は、奴隷狩り、両親の死、最愛の姉のオークション出品と、非人道的なことばかり。話の中心も、貨幣経済、商談、贋札戦争と、非常にシリアスな展開が続く。
しかし、シリアスな設定だからこそ、体から贋札が出てくるという現象のあり得なさが際立っている。個性的なキャラクターたちが織り成す頭脳戦では、降りかかる問題と“体から贋札を生み出す力”との関係性の乖離が絶妙に面白い。さらには、緊張感のある展開の中にスパイスとして加えられるアンニュイなセリフ回しが、妙にクセになる作品だ。登場人物たちの真剣な戦いのさなか、シュールなセリフや表情が際立ち、読んでいて思わずクスリとしてしまう。
「ebookjapanマンガ大賞2022」や「次にくるマンガ大賞2021」Webマンガ部門第6位にノミネートされ、ますます注目が集まる本作。今後、物語はどんどん加速し、まさに『ハイパーインフレーション』を巻き起こすだろう。