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漫画サンデー元編集長が舞台裏を語る! 上田康晴「マンガ編集者 七転八倒記」 ACT.28 突然変異

※本ページは、2013年11月~2015年5月にeBookjapanで連載されたコラムを一部修正、再掲載したものです。

▼プロフィール
上田康晴(うえだ やすはる)
1949年生まれ。1977年、実業之日本社に入社。ガイドブック編集部を経て、1978年に週刊漫画サンデー編集部に異動。人気コミック『静かなるドン』の連載に携わる。1995年に週刊漫画サンデー編集長、2001年、取締役編集本部長、2009年、常務取締役を歴任し、2013年3月に退任。現在、フリーのエディター。

ACT.28 突然変異

 東海林さだお氏の作品『ショージ君』がマンサン(週刊漫画サンデー)で連載がスタートしたのは1967年(昭和42年)の8月からだった。

 すでに東海林氏は、「週刊漫画タイムス」で『新漫画文学全集』の連載が始まっており、これが評判になっていた。その東海林氏の作品を見た時、峯島正行編集長は驚いている。それまでマンサンに持ち込んできていた作風とはがらりと変わっていたからである。峯島編集長にとってそれは「突然変異」だった。
 作風が変わったきっかけを東海林氏は次のように語っている。
 「僕はそれまで一枚もの、四コマものを描こうと悪戦苦闘して来たが、どうしてもいいものが描けない。漫画のスタイルも、絵柄も、これが自分のものだというものができないで苦しんだ。試行錯誤の連続だった。だから長いコマ割り作品を描こうと思っても、うまくいかなかった。そういう苦労をしていた僕にとって、アサカゼ君(1962年・昭和37年からマンサンに連載されていたサトウサンペイ氏の作品)はあらゆる意味で斬新であった。一つのコマの中に、顔だけ出てくる場面もあれば、手だけ出てくる場面もある。時には目玉だけ出てくる場面だってある。これはそれまでの漫画の常識をやぶるもので、古い先輩のコマ割り作品をみると、一コマ一コマ、登場人物の全身像が描かれ、その背景もきちっと描かれている。あれが基本だったのだろう。これは一枚もの漫画からコマ割り漫画に発展したせいであろう。これはサンペイさんが出るまで崩れなかった。サンペイさんが基本を覆したのだ。このサンペイさんの漫画をみているうちに、こういう方向にいけば、自分流のコマ割りの長い漫画が描けるのでは……」(峯島正行著『ナンセンスに賭ける』より)。
 少々引用が長くなったが、東海林さだお氏の作風を知るうえで貴重な表現である。峯島氏の言った「突然変異」の意味もよくわかる。

 サトウサンペイ氏の『アサカゼ君』がマンサンで連載が始まるまでには紆余曲折があったようだ。もともとサトウ氏は大阪在住。峯島氏が大阪出張の折、大阪朝日の学芸部長に紹介されたのが初めての出会い。しかし、このときに仕事を依頼することもなく終わったようだ。その後上京したサトウ氏の活躍に「これはすごい才能だと、遅まきながら悟った」(峯島正行著『ナンセンスに賭ける』より)。峯島氏は、4ページコマ割りの長編連載を依頼。これが『アサカゼ君』誕生の瞬間だった。後に『フジ三太郎』とともに文春漫画賞の受賞対象作品となった。
 その『アサカゼ君』が、東海林氏に多大な影響を及ぼした。不思議な巡り合わせである。

 で、『ショージ君』というタイトルだが、すでに「週刊漫画タイムス」に先を越されてしまった峯島氏は、「何か新鮮なタイトル」をと苦吟した。「題名さえ決まれば自然、内容も決まっていくように思えた」と何度かタイトルで東海林氏と打ち合わせを重ねている。
 そして最後に出てきたアイデアは、「いっそのこと、作者の名を題名にしてしまったらどうだろう」ということで、『ショージ君』に決まったようだ。
 峯島氏は、漫画のタイトルについて、次のように述懐している。
 「園山『ギャートルズ』の場合も、福地の『ドボン氏』の場合も、『ショージ君』の場合も題名をつけるのに、作者とともに苦労した。しかしいずれも結果はよかった。『ショージ君』は東海林の代名詞に、彼の書いたエッセイも『ショージ君の○○』の題がつくようになった。それだけ漫画の方も人気があった証拠である」(峯島正行著『ナンセンスに賭ける』より)。 確かにいいタイトルが浮かぶまでは、推理小説を読むのを途中でやめさせられたようで、気分的にどこか落ち着かない。しかし、そのタイトルがやっと決まり、東海林氏の作品のようにその人の作品の代名詞となった時には、編集者として喜びとともに誇りを感じるものである。
 東海林氏の作品は、マンサンでの人気がさらに火をつけたというわけではないだろうが、その後、「週刊文春」で『タンマ君』、「週刊平凡パンチ」で『リーチ君』と連載が始まり、なんとこの時期、月刊、週刊あわせて連載7本という人気振りだったという。さらに、1974年(昭和49年)には、「毎日新聞」朝刊に横山隆一氏の『フクちゃん』にかわり『アサッテ君』の連載が始まっている。東海林氏は、「ここに押すに押されぬ一流作家になった」。 (つづく)

*参考文献・『ナンセンスに賭ける』『近藤日出造の世界』ともに峯島正行著(青蛙房刊)

関連書籍
ショージ君の青春記 著者:東海林さだお
ギャートルズ 著者:園山俊二
フクちゃん 著者:横山隆一
フクちゃん・ダイジェスト 戦前・戦中 著者:横山隆一

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