ebook japan

ebjニュース&トピックス

漫画サンデー元編集長が舞台裏を語る! 上田康晴「マンガ編集者 七転八倒記」 ACT.22 月刊誌「サンデーまんが」

※本ページは、2013年11月~2015年5月にeBookjapanで連載されたコラムを一部修正、再掲載したものです。

▼プロフィール
上田康晴(うえだ やすはる)
1949年生まれ。1977年、実業之日本社に入社。ガイドブック編集部を経て、1978年に週刊漫画サンデー編集部に異動。人気コミック『静かなるドン』の連載に携わる。1995年に週刊漫画サンデー編集長、2001年、取締役編集本部長、2009年、常務取締役を歴任し、2013年3月に退任。現在、フリーのエディター。

ACT.22 月刊誌「サンデーまんが」

 ふたたび話は遡り、私が「週刊漫画サンデー」(以下、略称のマンサン)に異動して1年余り経ったころ、1979年の後半から1980年にかけての連載陣は以下の通りだった。
 『まんだら屋の良太』畑中純)、『鷺師』神田たけ志東史朗)、『会津おとこ賦』(司敬)、『風雲の館』(川本コオ牛次郎)、『試衛館の鬼』(小島剛夕+昂すまる)、『金曜日の寝室』(北野英明阿部牧郎)、『呪いの万華鏡』(玄太郎+大久保昌一良)で、これらの作品が安定した人気を誇っていた。

 なかでも、特に前の4代目編集長・T氏の時代からマンサンに登場し始めた『会津おとこ賦』の司敬氏や『まんだら屋の良太』の畑中純氏の存在は、後のマンサンの発展に欠かせない漫画家であったと、マンサンの歴史を振り返ってみてあらためてわかった。大河の流れも一滴の水からのたとえのように、新しい漫画家による新しい作品の小さな流れがやがて大きな流れとなって、次のヒット作を生み出す源泉となったことは間違いないと思う。このことについては、また後に触れたいと思う。
 マンサンが安定飛行をし始めた1983年頃になると、もう一冊漫画の定期雑誌を出そうという気運が編集部の中に高まってきた。時代は4コマ漫画誌がブーム。すでに他社からは、いくつか4コマ漫画誌が出ていた。むしろ遅いくらいではあったが、マンサンが安定してきたこともあって、話はトントン拍子にまとまり実現の運びとなった。以前にマンサンの増刊「ギャグファイト」という4コマ誌を出していたので、4コマ漫画誌発行の下地は整っていた。
 この年の4月、月刊誌「サンデーまんが」という誌名でマンサンの兄弟誌は創刊された。以前にもこの雑誌にはついては触れたが、表紙は当時4コマ漫画界では植田まさし氏に次いで人気のあった平ひさし氏にお願いした。 創刊時の主な連載は以下の通りだった。
 『あぜ道クン』(平ひさし)、『らくてんパパ傑作選』(植田まさし)、女子プロレス『あかねちゃんスペシャル』(いしかわじゅん)、『傑作選・あんたが悪いっ』『あんたもむ~ん』(いがらしみきお)、『カメ太郎のキャンパス日記』(安藤しげき)、『ゴキブリエッセイ』(芳井一味)、『横町グラフィティ』(村祭まこと)、『俺にも言わせろ』(高橋春男)、そして、『静かなるドン』が生まれるきっかけともなった『家庭にほえろ』新田たつお)の連載が創刊時からスタートした。
 わたせせいぞう氏は、なぜか7月号(6月発売)からナンセンス漫画『わんさかわんさかyyギャル』で登場している。そしてわずか3カ月後10月号(9月発売)からアメリカンポップ調の『私立探偵ミスターフィリップ』に作品内容をかえて再度連載がスタートした。後にこの作品が書籍となり文春漫画賞を受賞するのだが、この時はそんなことは想像だにしていなかった。
 いま、こうして当時の連載陣を眺めてみると、他社との差別化を意識したためか4コマ漫画誌に徹しきれないところが散見されるが、このラインアップは圧巻である。なんと贅沢な雑誌だったろうかと、自画自賛してしまう。
 「サンデーまんが」の中心となった編集スタッフは、私と若手のS・Tのふたりだった。マンサンでの仕事を同時並行でこなしながらの作業だったが、不思議に辛いと思ったことはなかった。むしろ好きな雑誌を思いのまま自由につくれるという喜びの方が強かったのかも知れない。
 特にS・Tの活躍に負うところ大であった。予告や目次など地味な版下づくりに工夫をこらし、その眠っていた才能がいかんなく発揮された。
マンサン編集部では、それぞれが連載漫画家を何人も抱えて忙しく飛び回っているため、予告や目次その他版下類は、外部のデザイナーにお任せで、あまりその出来栄えに口を挟んだことはなかった。もうちょっとカッコいいものをつくりたいという思いをかねがね抱いていたSは、「サンデーまんが」でその思いを実行に移した。
 あらためて、「サンデーまんが」の中の予告やマンサンの宣伝ページを見てみると、その出来栄えに今更ながら驚いている。当時は、パソコンなどなくコピー機を多用しての手作りであったことを思うとその感性に感心してしまう。
 そしてその感性は、版下製作だけにはとどまらなかった。S・Tによってもたされた新たな分野の漫画家の登場は、マンサンにも新しい風を吹き込むことになる。(つづく)

関連書籍
まんだら屋の良太 著者:畑中純
鷺師 原作:東史朗 作画:神田たけ志
静かなるドン 著者:新田 たつお
私立探偵フィリップ 著者:わたせせいぞう

関連記事

インタビュー「漫画家のまんなか。」やまもり三香
漫画家のまんなか。vol.1 鳥飼茜
完結情報
漫画家のまんなか。vol.2 押見修造
インタビュー「編集者のまんなか。」林士平

TOP