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『路草』目的のない“散歩的まんが読み”が豊かなあなたをつくる

のらりくらりとまんがを読んでいます。

専門書や参考書とちがい、私にとってまんがは新たな何かを学びたくて読むものではありません。目的だらけの世界で、目的のない行為は心身をほぐす。まんがはそういうものであってほしい……。

『路草(みちくさ)』というWEBサイト/コミックレーベルをご存知でしょうか。

ぶらぶらと目的地のない散歩をするようにまんがを読む時間が心を潤わせ、やがて、知らない世界への入口になり、自分のなかに広い世界を受け止めるための豊かな土壌をつくってくれます。それがまんがを読むことの大きな喜びであったりもするのです。

『路草』はそういう、目的地のない散歩的なまんが読みを大いに楽しむことができる場所です。

知らない路地を歩くように

何度も通ってきたのに今まで気づかなかったとか、なんとなく入ってこなかった路地ってありませんか。知らない路地に入ってみる散歩はどきどきする。路草にはそういう路地みたいなまんががたくさんあります。

『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
HEARTSTOPPER ハートストッパー アリス・オズマン/牧野琴子

イギリス発の本作はクィアな(=既存の性の分類に当てはまらない)若者たちの恋物語です。このまんがが散歩的なのは、ボーイズラブ的な性っぽさ、LGBTQを学ぶ……みたいな重さ、どちらにも属さないところでしょうか。

クィアの物語だからって深刻さがなく、どちらかといえばハッピーなムードが漂っています。

単純に若者たちの恋物語として受け止めることができる。あーこういうこと、あるよなーと思いながら読むことができる。読んだ後にじんわりあたたかい。なんかこの道に偶然入ってみてよかったわ〜って感じのまんがです。

もう少し詳しく知りたい方は、レビューもあわせて読んでみてくださいね。

『ゆうれい犬と街散歩』
ゆうれい犬と街散歩 著者:中村一般

これはまさに主人公が散歩するまんが。都会出身の「私」がイマジナリーフレンドのゆうれい犬と対話しながら東京の街をぶらついて、他者とのかかわり方について内省していきます。

こう、あまりに赤裸々な独白で、路地を歩いているうちに人ん家の敷地に入ってしまったような。自分のなかにありながら目をそむけてしまうような気持ち、うしろめたさ。こんなに正直に描いてくれる人がいるんだなあ……そして自分自身はどうだろうと考えてしまう。散歩って考えごとにぴったりなんですよねー。

こちらもレビューがありますので、よろしければお読みください。

『サバキスタン』
サバキスタン ビタリー・テルレツキー/カティア/鈴木佑也

さて、この路地は異国に通じています。自分には関係ないと素通りしてきた場所でふと足を止め、そこで起こっていることを目の当たりにしたとき、思わず自分のいる場所をかえりみるようなまんがです。

これは架空の独裁国家・サバキスタンを舞台にした物語。美しくも恐ろしさを感じさせる筆致で描かれるサバキスタンのゆくえを追いかけているうちに、どんどん知らない路地に迷い込んでしまう。自分が知らない世界の大きさにあぜんとしてしまう。

じつは散歩が苦手な人もいて、そういう人は「どこに行けばいいかわからない」と言います。どこを歩くかは自分次第だけど道が多すぎて選べない。だけど実は、そもそも行き先を決めずに散歩できること、わからないでいられること自体が幸福なんだなあ。『サバキスタン』を読むとそんなふうに感じられるのではないでしょうか。

疲れたときの、休息散歩

はじめて歩く道ばかりだと情報が多くて疲れてしまいますね。それで、いつも通っている道や昔よく歩いた道をゆく、休息のための散歩もある。路草には、まだ読んだことがないけれどこの気持ち知ってるなーと思えたり、懐かしい気持ちになれるまんがも揃っています。

『大丈夫倶楽部』
大丈夫倶楽部 著者:井上まい

休息にもってこいといえばまずこの作品でしょう。主人公があらゆる方法で“大丈夫”(=明日もなんとかやれる状態)になることを目指すまんが。大人になるとなかなか毎日元気100%というわけにもいかず、大丈夫、くらいを保っていく日々が続く。

そもそもまんがも大丈夫になる手段のひとつですし、そのなかでさらに大丈夫になっていく物語を読むのだからもう大丈夫。さっきから大丈夫、大丈夫しか言っていませんがきっと伝わるでしょう?

自分を疲れさせるもの、つらくさせるもののことを考えるのを一旦やめて、目的のない散歩に出る。それで何かが解決するというよりは、やっぱり「大丈夫になる」がしっくり来ます。休むのが下手で、すぐ無理だ……となってしまう人は『大丈夫倶楽部』を読むと何かヒントを得られるかもしれません。

『べじたぶるサンドイッチ』
べじたぶるサンドイッチ 著者:齊藤万丈

さらに休みたいときは、ギャグ・コメディに頼るのが一番だと思っています。しかもあんまり頭や心を使わなくていいやつ。そういうときに『べじたぶるサンドイッチ』はいいですよ。激弱ヤンキー男が最強女子小学生に弟子入りする話です。

ギャルのメンタルが最強という話をよく聞きますが、同じくらいヤンキーの精神性もいさぎよく見ていて気持ちいいものです。ヤンキーって今もいるんでしょうかね。

懐かしいタッチの絵もたまらないんだよなー。わざわざ新しい道を探して歩かなくてもちゃんとおもしろくて、元気をもらえるまんが散歩になるはずです。

「路草」で冒険と休息の“散歩的まんが読み”を

知らない路地で新しい発見をしたり、お気に入りのルートを歩いて心を落ち着けたり。散歩は冒険にも休息にもなって、自分にパワーを与えてくれる不思議な行為です。

そんな散歩みたいに、無目的に、気の赴くままにまんがを読む。気づいたら自分が耕されている。気楽に立ち寄れるまんがのなかに、大切なものがごろごろと転がっている……そういう“散歩的まんが読み”をしたいときには、きっと路草コミックスがいいお供になるでしょう。

執筆:ネゴト / サトーカンナ

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