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『リーマンミーツホスト』中年会社員とホストの奇妙で温かい友情物語

皆さんには「推し」がいますか?

アニメや漫画、俳優にアイドルと、どんなジャンル問わず「推し」は無数に存在し、私たちの心を支えてくれます。

『リーマンミーツホスト』では、冴えないサラリーマンがなりゆきからホストへの推し活を始めます。ホストがテーマというと、ホストにのめり込み破滅へ向かう主人公の物語を連想しがちですが、本作は孤独で不器用な男性達が交流を深めていくお話なのです。

【最新刊】リーマンミーツホスト 1巻
リーマンミーツホスト かわいちひろ

サラリーマンがホストにハマる!?

主人公の片山秀一は綺麗な男性アイドルが好きな中年サラリーマン。チケットが当たらなかった好きなアイドルのコンサート会場へ足を運んで現場の空気を味わいに行きますが、女性メインの空間で浮いてしまい意気消沈しながら夜の繁華街を彷徨います。

そこでホストの月城悠に声を掛けられてホストクラブへ足を踏み入れることに。失礼な物言いをしてきたきつい第一印象と打って変わり、自分に気遣う接客をしてくれる悠に対し秀一はすぐ魅了されます。

これが例えば「OLミーツホスト」や「リーマンミーツキャバ嬢」であればよくあるシチュエーションですが、この作品ではサラリーマンとホストがミーツするという今までになかった新鮮な設定で、1話目を読んだだけで引き込まれていきました。

真逆に見えて似ている二人

陽キャな悠と陰キャの秀一という設定が一貫した上での話かと思えば、実は違うんです。お互い過去に何らかの形で女性から精神的に傷つけられたと分かる描写があり、根本的に女性への苦手意識を持っている部分が見受けられます。

同じ経験をしていて似ているが故に片方が暗くなってる時は励まされ、逆に落ち込んでる時は知らず知らずの内に癒しになっている。そんなもちつもたれつの関係だからこそ、二人は交流を続けられているのかもしれません。

二人の様子を追っている内に「尊い」という感情が、久しぶりに沸き上がりました。日常でも推しに対して気軽に「尊い~!」と応援うちわを広げる感覚で思う時はありますが、この二人への「尊い」は木陰からこっそり見守って手を合わせて祈りたくなる、そんな感覚に近いです。

少しずつ見えてくる悠の過去

割と序盤で幼少期から続く母からの厳しい言動がトラウマになっていることがわかる秀一に対し、悠はどんな女性から傷つけられたのかわからなかったり、疑似恋愛を売りにするのが主流のホストクラブで、何故色恋営業ではなく友営(友達の様な対応をする接客スタイル)を貫くのか明らかになっていなかったりと詳細不明なキャラです。

そんな彼のパーソナルな部分が見えて印象的だったのは修一と二人でCDショップへ行った回。

悠が子供の頃、家に居たくなくて視聴機で閉店まで音楽を聴いて時間を潰していた過去を思い出すシーンがあります。私自身も過去に同じ経験があり、近寄りがたいイメージだった彼に親近感を抱くようになりました。

このエピソードを読んだ人は多かれ少なかれ思春期の頃の孤独感や苦しかった時代を思い出し、悠への関心が高まるのではないでしょうか。

また、悠は自他共に認める冷淡な部分を持ち合わせており、誰にも打ち解けない姿も度々描かれていますが、秀一が心から悠を「ホスト」としてだけではなく、一人の人間として尊敬し、裏表無く真っ直ぐに応援する姿を目の当たりにすることで心を開いていき、次第に接客スマイルでは無く心の底から笑った顔を見せてくれ、その表情に思わず愛着が湧いてきます。

たとえ疑似的友情だとしても

現在の二人の友情はホストクラブを介した疑似的な関係に過ぎませんが、実際に人と真正面から向き合って関わることは勇気やエネルギーを要するものです。疑似的でも人と交流することで気分を晴らしたり癒す経験も、時として必要なのかもしれません。

この先、悠と秀一がいつかホストと客の関係を終えて本当の友人になるのか、一時の思い出となって二度と会わない展開になるのか全く読めませんが、少なくとも二人が過ごしてきた時間は無駄ではなく必要だったとお互いが感じてずっと大事な記憶として心の中に留めてて欲しいですね。

二人がギクシャクしたり大きなハプニングが起きてハラハラさせられることもありますが、作者であるかわいちひろ先生の可愛らしくて温かみある絵柄によって全体的な雰囲気が重くならず読みやすいのも魅力的です。

執筆:ネゴト /

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