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【ビスケットブラザーズ・原田泰雅と漫画】コント作りのルーツは漫画。“生きてる”キャラを育てたい

お笑いコンビ・マユリカの中谷祐太さんからはじまった「芸人と漫画」が、皆様からのご好評を受けシリーズ化決定! 紹介リレー形式のインタビュー企画として不定期連載いたします。

今回、中谷さんからバトンを受け取ったのはビスケットブラザーズの原田泰雅さん。漫画を「月100冊は読む」という原田さんのルーツや今好きな漫画、ご自身が作るネタとの関係までたっぷりとお話を伺いました。

▼吉本興業・ビスケットブラザーズ 原田泰雅(はらだ たいが)

1992年生まれ、大阪府出身。2010年にNSC大阪校33期生として入学し、同期のきんと「ビスケットブラザーズ」を結成。2021年に「第51回NHK上方漫才コンテスト」、翌年は「キングオブコント2022」と漫才・コントのビッグタイトルを獲得し、お笑い界での存在感を強めている。

ネタ作りのルーツは漫画

――ご紹介いただいた中谷さんとはNSCからの同期とのことですが、おふたりで漫画の話はされますか?

原田:めっちゃ情報交換しますね。あいつは元漫画家なだけあって「センス」みたいな説明が少ない段飛ばしのファンタジー、でもぶっ飛んでるなかにリアルがある漫画が好きなイメージ。

――なるほど。それに対して自分はこういうのが好き、というのは?

原田:僕は真逆のタイプな気がします。描写がリアルで細かくてアホらしいものが好き。アホなものからスタートして壮大な世界を描いていくっていうんですかね。

――たとえばどういった漫画でしょうか。

原田:『狂四郎2030』。作者の徳弘正也先生って尾田栄一郎先生の師匠としても有名で『ジャングルの王者ターちゃん』も好きですけど、この漫画は相当すごいっすよ!

狂四郎2030 著者:徳弘正也

――タイトルを挙げていただいてはじめて読んだのですが、冒頭しばらく下ネタ続きで、ここからどう広がっていくんだろうと(笑)

原田:そうですよね(笑)入りは「バーチャルセックス」の話で、おっぱいとかめっちゃ出てくるけど、読んでいくと格差社会の話になっていくんです。血で分けられてる世界で、階層のちがう人間どうしは出会う機会がなくてバーチャルでセックスするしかない……という、ものすごい重厚なストーリーのヒューマンドラマです。

じつは僕らの同期に徳弘ってヤツがいて、そいつが徳弘正也先生の甥っ子なんですよ。

――ええ! それはびっくりですね。

原田:それで徳弘に「ごめんやけど、おっぱいとかエロいシーンがあんなに多くなかったら超有名作を生み出しまくってると思うから、それをおじちゃんに伝えてくれへんか」って言ったんですよ。

――ははは(笑)そんなことが。

原田:そしたら徳弘が「おっちゃん、おっぱい描きたくて漫画家になってるからそれ言われへんわ」って。かっこいいなと、余計好きになりましたね。あんなおもろいストーリー作れんのに、おっぱい描きたくて漫画家になったからおっぱいを描き続けるっていう……そのこと自体が、自分のルーツになってる気がします。

――おお……早速とてもいい話です。実際、ネタにも漫画は生かされているのでしょうか?

原田:はい、めちゃくちゃ漫画ですね。

――特に影響を受けているのはどういったところですか?

原田:具体的なキャラとかシーンを漫画から抽出してるわけじゃないけど、作り方っていうんですかね。たとえば「海賊がこうなったらおもろいな」っていう状況とか「これ言ってみたいな」っていうセリフを思いついたら、逆算で埋めていくというか。

――その状況やセリフに持っていくためのネタを作る?

原田:そうですね。でも漫画を読みすぎてる弊害もあって……「キングオブコント2022」でやった山で野犬に襲われるネタも、結構みんなに「何なん?その設定」って言われました。でも僕としてはそこをずらしたつもりはなくて。いろんな漫画でそういうシーンを見てきたから、野犬は自分のなかでベタやったんです。

――もう漫画のなかでいっぱい経験してきた状況、ということですね。

原田:そうそう、僕が漫画読みすぎてるから「完全にあるあるや」と思ってたやつが違った。異世界転生ブームが始まった頃にネタの設定にしたこともあるけど、全然ウケへんねやっていう。その辺の感覚が欠如してしまってるかもしれないです。

「確実に生きてる」キャラが好き

――他にルーツになっている漫画はありますか?

原田:人生で一番はじめに衝撃を受けた漫画は、中学の頃に読んだ『からくりサーカス』ですね。

からくりサーカス 著者:藤田和日郎

「こんなんしたらあかんやん!」の連発というか、それまでに知ってた漫画から急にワンランク上の重厚なものを見た感じで。今もはっきり「一番おもしろい」と思います。

――そのおもしろさはどういった部分でしょうか。

原田:絵、雰囲気、世界観、セリフ回し……どれもちょっと特殊で「もしかしたらこの漫画自分だけが好きなんかもしれへん」って思わせてくれないですか?

――わかります、どこか「普通じゃない」感じがありますよね。

原田:そうそう、人によっては苦手で。自分が好きでいることに特別感を持たせてくれるんですよね。

あとは伏線回収のしかたがエグいし、ゆっくりキャラを一人ひとり好きにさせてから最後にドーンと衝撃の展開を持ってくるのもすごい。人間vs人形の構図なのに、人間と人形どっちの去り際でさえかなしい。

――たしかにこの作品は全体にかなしみが漂っている気がします。

原田:絶対に楽しくなかったらあかん「サーカス」が題材なのにかなしいっていうバランス感覚がめっちゃいい。

――実は事前に『からくりサーカス』と送られてきたとき勝手に納得してしまったんです。原田さんが演じるキャラにも、笑えるのにどこかかなしみを感じて。

原田:あー、たしかにちょっとかなしいかも。『からくりサーカス』って誰も強くないというか、みんな心はめっちゃ弱くて「確実にこのキャラ生きてる」って思えるところが好きなんです。悟空とかルフィみたいなスーパーヒーローが出て来ないのがいいんすよね、もちろんそっちも大好きなんだけど。

――その美学がもしかしたらネタにも生かされている?

原田:今思うと、コントめっちゃそうかもしれない! なんで『からくりサーカス』を好きかをはじめて言語化したんで、ありがたいっす。

キャラの背景が見えることが大事

――事前にあとひとつ、ルーツとして『宮本から君へ』を挙げてくださっていました。

原田:はい。好きな作品を聞かれたら少年マンガは『からくりサーカス』、青年マンガは『宮本から君へ』ってよく言うんですけど。でも二度と読みたくない作品でもあって。

宮本から君へ [完全版] 著者:新井英樹

――え、そうなんですか?

原田:むっちゃしんどいんっすよ、いやほんまに。新井英樹先生の漫画って全部そうなんですけど、気持ちがガッと揺さぶられる。映画で言ったら『ダンサー・イン・ザ・ダーク』みたいな、胸クソ悪いんやけど、好き嫌いは別にして終わった後に何か与えてるっていうのは結構大事なことやと思って。

――なるほど……しんどい作品。これにはいつ頃出会ったのでしょうか。

原田:お笑いはじめて1年目くらい、全然ウケへんくて本当に自分がどうなるかわからへんようなときですね。主人公の宮本も、学生のときはやんちゃで自分が一流と思ってたけど、社会に出たらちっぽけで、もうとにかく思い通りにいかへんという。

ほんまにただの社会がリアルに描かれてて、言うたら宮本に焦点を当てたドキュメントなんですよ。新井先生、人の心を揺さぶるのがうますぎる。最後はもう……むちゃくちゃです。

――むちゃくちゃ……(笑)心して読みます。

原田:読んでほしい、でも「なんでこんなんすすめたんですか」って言うかも(笑)

――こうしてみるとルーツには「大団円! ハッピーエンド!」な作品よりも、複雑な心境になるものが多いですね。

原田:うん、ただただ明るい漫画もありえないぐらい読んでるけど、ぱっと思い浮かんだのは「おお……」ってなった作品です。

でも僕らのコントも「どっか哀愁があるよな」って言われますね。そういう感情から作ることが多いかもしれない、「この寂しい感情を寂しくなく見せるにはどうしたらええんやろ」とか。

――原田さんの笑いにとっても、やはりそのあたりが重要なんでしょうか。

原田:そうそう。「これや!」と思ったのが『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』で、フレイザードっていう悪役のたったひとつのセリフによって、そいつの背景が一瞬でわかる場面。

ドラゴンクエスト ダイの大冒険 三条陸 稲田浩司 堀井雄二

「こいつってそれでこんなことなってんねや」って、その瞬間にそのキャラがめっちゃ好きになって……これはちょっと意識せなあかんなと思いました。

コント内でもキャラが確実に生きてるんで、そいつがどういう人生を歩んできたのかを一発でパチンってわからせる。この考え方は大事にしていきたいと思ってます。

大人になった今こそ読みたい漫画

――漫画は月に何冊くらい読まれますか?

原田:100冊は読んでますね。電子で買いまくってスマホ代月8万円とか。

――それはすごい! そのなかでも今好きな漫画を教えてください。

原田:今アツいのは『はじめの一歩』。

――またずいぶんと歴史ある作品が出ましたね!

原田:最近離れてる人多いと思うんですよ、みんな一歩がボクシングしなくなったとこで止まってる。僕も選手引退みたいなところで「どうすんねん、おもんないってそれ」と思った。でも今読みだしたらめっちゃおもろいんすよ。

はじめの一歩 著者:森川ジョージ

結局、一番大事だったことをまだ何も叶えてない。でも考えなしだった一歩がセコンドやったり他の世界見たりして、ボクシングへの目線が変わっていってる。だからこそ共感できる部分があるし、復活してほしい気持ちもある。この漫画がずっと続いてる理由があるなと思います。

――その感じ方は、ご自身が年齢を重ねたこととも関係しているのではないでしょうか。

原田:たしかにそうですね。他にも最近の漫画では『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』、『こういうのがいい』とかが好きで。

スーパーの裏でヤニ吸うふたり 著者:地主
こういうのがいい 著者:双龍

なんやろな……30歳になって、やっぱ大人になってしまったかもっすね(笑)ずっとバトル・ファンタジーとか、ガーンとくるヒューマンドラマとかがよかったんですけど。

――まさにルーツで挙がったような。

原田:それがなんか急にこういう、限りがあるけど終わってほしくないって思うような人間関係の漫画が好きになってきた。子供の頃より思い出が増えたんですかね、そこに共感できる材料っていうか。

喫煙所のリアルな人間関係を楽しむ

――なかでも「これ! という一冊」として『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』をお持ちいただきました。

原田:これ会社員の男が喫煙所でタバコ吸いながら話す女の子と仲良くなるって話で。僕も吸うんですけど、喫煙所で吸うてるときってなんとなく居合わせた先輩とかとしゃべる空気というか、そこだけの特別な空間があると思うんですよ。

その人と一度ご飯とか行ってしまうとまた関係が変わるやないですか。だから喫煙所だけの、近づくけど仲良くなりきれへん感じが「わかるで~」っていう(笑)

――「わかるで~」ですね(笑)

原田:一緒になるタイミングでちらっと「暑いな」って話すぐらいのところからなんとなく日課になっていくような、リアルな人間関係。

――ガツンとくる重さはないけれど、生きた人間どうしの関係が描かれてますよね。

原田:どっちかがこの関係を変えようと踏み込んだら崩れてしまう。この好きやった空間がなくなるかも……っていうね。変わってほしいけど変わってほしくない。

――やはり漫画のなかで生きてるキャラどうしの関係を見るのが好き?

原田:そうですね、ふたりはもしかしたら幸せに向かってるかもしれんけど、それはそれで寂しいという訳のわからん感じがめっちゃ好きです。

漫画のように“生きてる”キャラを育てていきたい

――漫画とネタ作りとの関わりについてたくさんお話くださってありがとうございました。最後に「これから漫画とどう関わっていきたいか」をお聞かせいただけますか?

原田:漫画が終わるときってめっちゃ寂しくて。その後のどうでもいい日常が描かれるアフターストーリーとかが好きなんですよ。

それで言うと、お客さんが「コントのキャラクター好きなんです」って言ってくれても、自分がそいつらの人生を5分間とかで終わらせてしまってるやないですか。もしかしたら、どんどんそれを長く広げていけるといいかもしれない。

――それはいいですね! 「確実に生きてる」キャラが好きな原田さんならではという感じがします。

原田:そんなふうに、漫画を読んでいて「これが嫌やな」「これが寂しい」って思う部分を、コントのキャラにこうしてあげよう、みたいに活かしていけるといいなと思いますね。

――すごく素敵です。これからどんなキャラに会えるかいっそう楽しみになりました!

原田:ありがとうございます! 漫画の話、楽しかった!

原田泰雅さんが今好きな作品『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』を読む

スーパーの裏でヤニ吸うふたり 著者:地主

取材・執筆: サトーカンナ / 撮影: 服部健太郎

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