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『多聞くん今どっち!?』推しの素顔を知ってしまったオタクが始める新たな”推し活”

師走ゆき先生の『多聞くん今どっち!?』は、トップアイドルとその強火オタクである女子高生のラブコメディ。

多聞くん今どっち!? 著者:師走ゆき

推しとオタク、その関係性は切っても切り離せないもの。ですが、オタクにとって最愛の推しは、遥か彼方で光り輝く、雲の上の存在でもあります。そんな前提が砕かれている本作では、アイドルらしからぬ推しの素顔を間近で目の当たりにすることとなるオタク女子の、ユーモラスな”推し活”が描かれています。

アルバイト先が推しの自宅だった

アイドルグループ「F/ACE(フェイス)」の不動のセンターである福原多聞(ふくはらたもん)。

セクシー&ワイルド担当の彼は、グループでも特に多くのファンから支持を得ているメンバーです。

高校生の木下うたげも、そんな彼を推す、否、ゴリゴリに推す信者の1人です。より一層、最愛の推しへ貢がんと、ハウスキーパーの仕事に精を出すうたげ。するとなんと、新たな依頼先は多聞くんの自宅だったのです!

図らずも、推しのプライベートまで支えることになったオタクと推しのコミカルなやりとりが、何よりも魅力となっているのがこの物語なのです。

トップアイドルの素顔は自尊心が底辺

推しへ余すことなくお金を積もうと、張り切ってバイトに向かった矢先、うたげは推しのプライベート空間に足を踏み入れることになりました。オタクにとってはバグにもほどがある状況です。

しかしそこにいたのは、爆イケの多聞くんとは似ても似つかないネガティブ男。そう、キラキラアイドル多聞くんの素顔は、自己肯定感ゼロの「陰キャ」だったのです・・・!

プライベートの多聞くんの日課は、自分のダメ具合に言葉の限りを尽くすこと。表舞台で活躍する”陽”全開の多聞くんとは、まるで別人格のよう。そんな有様にうたげからも「福原」ではなく「ジメ原」とまで呼ばれる始末・・・。

それでいて、永遠と自虐に走るジメ原さんのネガティブ妄想力が、ずば抜けて達者。その様子がまた最高にコミカルでもあるのです。

オタクが認知する爆イケの多聞くん、通称「イケ原」に負けないほど、「キャラ立ち」している「ジメ原」。彼のセルフ罵詈雑言の語彙力は、ある種エンターテイメントとして、読者を楽しませてくれるはずです。

相手がオタクなら勝ち目はない

ですが、多聞くんにとって、相手が悪かったのでしょう。一つひとつがヘビーな自虐であろうとも、オタクからしたら効力ゼロ。うたげは物ともせず、多聞くんがいかに素晴らしいかを、多聞くん本人に歴然と述べていきます。彼は、自身の信者に毎度完敗するのでした。

けれど、多聞くんを褒め称えるうたげの言葉の数々は同時に、少しずつ彼の”支え”にもなっていくのです。

力が湧いてくるような、あるいは悲しみを癒してくれるような。多聞くんに対する一語一句嘘のないうたげの言葉は、アイドルである多聞くん自身のチカラになります。それは、オタクたちがアイドルからもらうチカラと似ているのかもしれません。

例えば、「辛いときにも心の支えになってくれた」「一歩を踏み出す勇気をくれた」。誰かを”推す”きっかけとなるのは、こういう瞬間なのではないでしょうか。

本作ではそんなシーンが、アイドルである多聞くん側の体験として多く描かれています。推しの楽曲やパフォーマンス、もしくは何気ない一言のような、うたげの言葉。そうして多聞くんは、また表舞台に立ち、煌めくことができます。

推しとオタクの絆を越えたふたりの特別な関係性は、コミカルでありながら、推し文化の真髄を見せてくれるでしょう。

執筆: ネゴト / yukiko

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