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【漫画家のまんなか。vol.3 永井豪】漫画家でいるかぎり、すべての漫画家から影響を受け続けたい

トップランナーたちのルーツと今に迫る「漫画家のまんなか。」シリーズ。

今回は社会現象を起こしたギャグ漫画『ハレンチ学園』から、ロボット漫画の新境地を開拓した『マジンガーZ』、『デビルマン』や『キューティーハニー』などの多彩な作品で世界中のファンを魅了する永井豪先生にお話をうかがいます。

生きる伝説的な存在でありながら、現在も意欲的に作品を生み出し続ける情熱の源泉はどこにあるのか。

漫画家としてのルーツになった原体験、影響を受けた作品やメディアミックスへの考え方など「永井豪のまんなか。」について語っていただきました。

▼永井豪
1945年、石川県輪島市出身。1967年に『目明しポリ吉』でデビュー。1968年から連載開始した『ハレンチ学園』は社会現象を起こし、漫画界の常識を塗り替えた。
1968年にダイナミックプロダクションを設立。その後も『デビルマン』『マジンガーZ』『キューティーハニー』などの大ヒット作を世に送り出し続け、多くの作品がアニメ化・映画化されている。
近年も精力的に活動を続け、2022年には『デビルマン』『マジンガーZ』の生誕50周年を記念し、数十ページの書き下ろし漫画を含む『マジンガーZ 2022』上・下巻が発売された。

4歳の僕に、強烈な原体験を与えた手塚作品

影響を受けた漫画を選んだとしても、30〜40作品くらいになってしまうので難しいですね。でもその中から敢えて挙げるとしたら、やはり人生で最初に読んだ漫画である手塚治虫先生の『ロストワールド』です。

ロストワールド 著者:手塚 治虫

当時、学校で寮生活をしていたいちばん上の兄が、学期終わりで帰省するときに漫画をお土産に買ってきてくれたんです。4人兄弟だったので4冊あり、「小さい子から選んでいいよ」と言われて4歳の僕が手に取ったのが『ロストワールド』でした。

選んだ理由は表紙や内容に惹かれたというより、上下巻で2冊あってお得に感じたからです(笑)。 まあ4歳ですから、字も読めませんしね。それでも読めないなりに一生懸命眺めたり、兄に読んでもらったりして、ロストワールドの世界にのめり込んでいきました。今でも内容はしっかり覚えています。

可愛らしいキャラクターからは想像もできないような、人間のエゴや悲しみが詰まった凄まじい作品でした。4歳の子どもには深すぎる内容だったかもしれませんが、この作品との出会いは強烈な原体験となって、僕の人生観に大きな影響を与えてくれましたし、漫画家を志すきっかけにもなりました。

ギャグ漫画家からの脱却、ダークヒーローの誕生

手塚先生の影響を受けて『ロストワールド』のようなSF漫画や『鉄腕アトム』のようなロボット漫画を描きたいと思って漫画家になりましたが、デビュー作は『目明しポリ吉』というギャグ漫画でした。

続いて発表した『ハレンチ学園』は社会現象を起こすほど有名な作品になって、世間からは「永井豪はギャグ漫画家」と認知されてしまったんです。これにはとても戸惑いましたね。「自分が目指していた世界とは違う、遠いところにきてしまったな」と。

もちろんギャグ漫画も楽しく描いていましたが、それだけでは終わりたくなかったので、印象を思いっきり変えるためにギャグと正反対の作品を描こうと決意しました。そこで生み出した作品が、悪魔を主人公にした『魔王ダンテ』です。

手塚先生のような漫画を描きたいからといって、先輩漫画家が切り拓いた道をそのまま進んでしまったら自分の作品はつくれません。『魔王ダンテ』ではこれまでのヒーロー漫画にはいないような、思いっきりハードでダークなヒーローを描きました。

それが功を奏して東映動画(現・東映アニメーション)の目にとまり、同じく悪魔を主人公にした『デビルマン』のアニメ化と、少年マガジンでの漫画連載が決まったんです。

この2作品の流れは、漫画家人生の大きな転機のひとつであり、僕の漫画の振り幅を広げてくれましたね。その後はギャグ漫画ではなく、ストーリー漫画のオファーが増えていきました。

少年漫画の常識を覆した女性主人公

『ハレンチ学園』のキャラクターでいちばん人気があったのが、いちばん悪い先生のヒゲゴジラでした。次が十兵衛で、主人公の山岸くんは3番目。そこで「十兵衛のような女の子を主人公にした漫画を描きたい」と提案したら、編集部から猛反対されました。当時の少年誌では「女性が主人公の漫画は絶対に売れない」と言われていたんです。

でも十兵衛の人気を見ていてウケる自信があったから、連載が始まればこっちのものだと思っていました。そこで「悪人一家の話で、そのうちのひとりが女の子です」と説明して、OKをもらって描き始めたのが『あばしり一家』です。実際には第1回目から菊の助という女の子を主人公にして描きましたが、1回目から人気が出たので何も言われなくなったし、結果的に単行本が15巻も出る長期連載になりました。

僕が女性を描くうえで気をつけているのは、デッサンです。男性はデッサンが多少狂っていても勢いが大事なところがあるけれど、女性は見た目の可愛らしさと美しさ、ラインのバランスが崩れないように丁寧に綺麗に描きます。崩れていると見ている読者も嫌だと思うし、僕自身も嫌なので、デッサンにはすごく気を使っています。

女性を描くときの思い入れは、男性の絵を描くときの倍くらいあるんじゃないかな(笑)。

僕は男兄弟で育ったので、身近な女性は母だけでした。だから女性がどんなものなのか、どんな生活をしてるのか、どんなことを考えているのか、まったくわからなかった。すごく興味があるけれど、すべてが謎で、憧れの対象でしたね。そんな憧れが偶像化したものが、僕の漫画に出てくる女性たちです。

『あばしり一家』以降も、『キューティーハニー』をはじめ、女性が主人公の漫画をたくさん描いてきました。少年漫画の主人公が女性というのも今ではすっかり当たり前になりましたが「その道を切り拓いたのは僕だ」と、ひそかに思っていたりします。

漫画はライブ! 台本なしでキャラクターと対峙する

ギャグ漫画でもストーリー漫画でも大切にしているのが、僕自身が楽しみながら描くことです。僕にとって、漫画はライブ。先の展開が読めてしまうと描いていて楽しめないので、設定を作り込んだり、ストーリーの最後を決めすぎたりしないようにしています。

漫画を描いているときは自分自身も作品の世界に入り込んで、全身全霊で走り回ったり戦ったりしている感覚なんです。どの作品でもキャラクターたちと真っ向から対峙して、台本なしで演じてきました。キャラクターの性格や行動に引っ張られて、自分でも思いがけない方向にストーリーが展開することもよくあります。

みんな僕が考えたキャラクターだから、多少なりとも僕の性格や考え方の影響を受けていると思うんだけど、自分だったら絶対しないような悪いことを平気でやってしまうヤツもいるし、ものすごくモラリストなキャラもいるし……。実は多重人格なのかもしれないですね(笑)。

基本的に楽しみながら描いていますが、中にはしんどくてボロボロになりながら描いていた作品もあります。とくに『デビルマン』と『手天童子』は、魂を削るような思いで描いていました。

悪魔や鬼を描いているときは現実とまったく違う世界をキャッチし続けながら描くので、普通の作品の倍くらい疲れます。とくに『手天童子』を連載していたころは怖い鬼が出てくる悪夢を毎晩見ていたから、体調も悪くなるし、不安で苦しくて、毎日が鬼との戦いでした。

それでも、どれだけ辛くても作品の世界に入り続けたのは、僕が漫画が好きだからだと思います。漫画を描いているのが好きで、やっぱり漫画の世界にいるのが好きなんです。

リアリティと緊迫感。ロボット漫画の潮流を変えた『マジンガーZ』

デビルマンの連載開始から4ヶ月後、デビュー前から「絶対に描く」と決めていたロボット漫画を描き始めました。子どものころに夢中で読んだ手塚先生の『鉄腕アトム』や、横山光輝先生の『鉄人28号』の影響もありましたし、漫画の王道ジャンルのひとつであるロボット漫画に挑戦したいという思いがあったんです。

鉄人28号 原作完全版 著者:横山光輝

けれど、手塚先生や横山先生の真似をするのは申し訳ないので、「これまでにない新しいロボットのアイデアが思いついたら、すぐに描こう」と常に考えていました。

あるとき渋滞で進まない車の列を見て「車が立ち上がって、前の車をまたいで行けたらいいのに」と思ったんです。その瞬間、今までになかった“自分で運転して動かす搭乗型ロボット”のアイデアを思いつきました。それが『マジンガーZ』でした。

手塚先生のアトムは人工知能型ロボットで、人間の手を借りずに自ら判断して動きます。横山先生の鉄人28号は遠隔操作型ロボットで、主人公は安全な場所からロボットを操縦します。そして、僕のマジンガーZは搭乗型ロボットで、主人公が乗り込んで操縦する。そのため、死んでしまう可能性がある状況での戦いを強いられます。自分の行動が、ダイレクトに自分に跳ね返ってくる。そこにリアリティや緊迫感を生み出せると考えました。

そんな思いから誕生した搭乗型ロボットは、今ではロボット漫画の主流になっていると感じています。僕は横山先生や手塚先生に遠慮して新しいロボットのアイデアを生み出したけれど、みなさんは僕には遠慮してくれないですね(笑)。

でも、そこに目くじらを立てる気はまったくありません。ちょっとでも違う要素があれば、別の作品ですから。怒ったり文句を言ったりする暇があったら、もっと良いものを描いてやろうとか、この部分は参考にしちゃおうとか、僕はそうやって常に前に進むことだけを考えて作品を生み出してきました。

メディアミックスで広がる、作品の新たな可能性

僕の漫画が原作になっている映画やアニメも、一線を画した別の作品という認識です。原作としての使用をOKしたら、そのあとは口を挟んだりせず各作品の監督におまかせしています。僕の作品をきっかけに新しい作品が生まれていくのが嬉しいし、キャラクターが立体化して動いて、そこに効果音や音楽がついたときに、どんな作品になるのか楽しみなんです。

先ほどお話ししたように、僕は漫画の世界に入り込んで描くので、もともとキャラクターを立体でとらえているし、音も聞こえています。けれど、それを漫画で表現するのはとても難しい。例えば文字で「ドンドン!」と書いても、僕の頭の中にある音を完璧には伝えられません。そこをカバーできるアニメや映画は、漫画とは違う楽しみ方ができると思っています。

映像化されたものを観て「声も効果音も、ちょっとイメージと違うな」と思う場合もありますが、2〜3回も聞けば「この声優さんがぴったりだな」と納得できて、自分で描いているときもその声が反映されたりもします。それに、ちょっとした違和感よりもキャラクターが動いて喋っていることに対する嬉しさのほうが勝っちゃいますね。

「作品が映像化されるのが嬉しいなら、自分でもアニメをつくったら?」と思われるかもしれませんが、そこに手を出したら漫画が描けなくなると思って辞めておきました。アニメ監督としても活躍していた手塚先生がどれだけ苦労したかも聞いていましたし、ダイナミックプロダクション(※)を潰しかねないくらい入れ込んでしまいそうだったので。

僕ができないことをやってくださっている方たちに、注文なんてつけません。自分流に、好きなように、どんどん自由に制作していただきたいと思っています。アニメでも映画でも舞台でも、いろいろな形で僕の漫画を活かして、作品の可能性を広げてもらえたら嬉しいです。実際に観せていただくと、僕にはなかった視点やアイデアがあって参考になる場合も多いんですよ。

※1968年に永井先生が設立した漫画プロダクション

すべての漫画家から影響を受け、描き続ける

車の渋滞シーンから『マジンガーZ』のアイデアが生まれたように、僕は日常のすべてに作品づくりのヒントがあると思っています。「自分は漫画家じゃないから関係ない」と思うかもしれませんが、自分に影響を与えるものを意識的に増やすことで人生の幅が広がって、漫画を読むときの楽しみ方の幅も広げてくれますよ。

僕は映画を山ほど観ますし、演劇や落語、スポーツ観戦、コンサートにも足を運びます。街中での人間観察もヒントの宝庫です。そうやってたくさんのヒントを入力して、月日をかけて混ざり合ったものが、いつか生み出す作品に良い影響を与えてくれると考えています。

ありがたいことに僕に影響を受けたと言ってくれる漫画家さんもいますが、僕も孫のような世代の漫画家さんに影響を受けて、常に刺激をもらっているんです。例を挙げると『鬼滅の刃』は漫画も読みましたし、アニメも観ました。

鬼滅の刃 著者:吾峠呼世晴

どの時代にも素晴らしい漫画家がいますから、僕が漫画家でいる以上はすべての先生から影響を受け続けていきたいですし、受けた影響を活かして作品を生み出し続けていきたいと思っています。

長編などの大きな作品は難しいかもしれませんが、今後も短編漫画をたくさん描いて、若い漫画家さんに新たな影響を与えられる存在でありたいです。

永井豪の「まんなか本」

「W50周年記念 デビルマン×マジンガーZ展」豊島区立トキワ荘マンガミュージアムで開催中!!

会期:2023.4.8 (土) ~2023.7.30 (日)
Vol.Ⅰ「デビルマン」 2023.4.8(土)~2023.5.28(日)
Vol.Ⅱ「マジンガーZ」2023.6.3(土)~2023.7.30(日)
https://tokiwasomm.jp/

当ページ内のすべての写真と文の転載はお断りいたします。

取材・文: ネゴト / 成澤綾子
撮影: サトー・トモロー

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