連載開始から25年『ホイッスル!』が描く少年たちの覚悟の物語は今も燦然と輝き続ける
あなたの青春を彩ったサッカーマンガはどの作品でしょうか?
わたしの青春のサッカーマンガは、樋口大輔先生の『ホイッスル!』です。
1998年に始まった『ホイッスル!』は、2023年に連載開始25周年を迎えます。もう25年!?と時の流れの速さに唖然としたあなた、きっと同世代でしょう。
連載が始まった1998年といえば、サッカー日本代表が初めてワールドカップに出場した年。その歓びは『ホイッスル!』の記念すべき第1話にもバッチリ描かれているのです。
『ホイッスル!』©樋口大輔/集英社 1巻より
作中にはプロの世界を見据えたセリフやシーンがたびたび登場しており、『ホイッスル!』が世界の、そして未来の日本サッカー界をいかに強く意識していたかを感じることができるでしょう。
『ホイッスル!』©樋口大輔/集英社 10巻より
そんなバリバリ硬派なメッセージを発しつづける『ホイッスル!』を、思春期どまんなかだった当時のわたしは「かっこいい男の子たちがサッカーするマンガ」として胸をときめかせながら読んでおりました。
ミーハーだと笑われてもかまいません。当時の女子たちはみんな推しを応援しながら読んでいたはずです。
少女マンガの王子様のごとくビジュアルが強すぎる。こんな魅力的な存在を前に、恋をするなという方が無理だってもんだ!
『ホイッスル!』©樋口大輔/集英社 2巻より
今回はそんな思春期の胸のときめきを封印し、25年の時を重ねた冷静な大人目線で『ホイッスル!』の魅力を語りたいと思います。
『ホイッスル!』とは覚悟の物語だった
改めてご説明の必要はないかもしれませんが、『ホイッスル!』は1998年から2002年まで「週刊少年ジャンプ」で連載されていた青春サッカーマンガです。
サッカー少年・風祭将が困難に負けずプロへの道を切りひらいていく…応援せずにいられない超王道なストーリーは、多くの少年少女たちの心に熱狂を巻き起こしておりました。
『ホイッスル!』©樋口大輔/集英社 3巻より
青春サッカーマンガとひと言で定義しましたが、その中身はコンプレックス・友情・家族・夢と現実の間で揺れる思いなど、思春期の少年たちをとりまく困難が内包されたシビアな群像劇的作品でもあります。
『ホイッスル!』©樋口大輔/集英社 5巻より
風祭がサッカーの名門・武蔵森学園中等部から桜上水中学校へ転校して…という衝撃の始まりから、打倒・武蔵森を目指しチームメイトとの絆を強めていくサッカー部での物語と、強者たちのあつまる選抜チームでプロになるための実力を磨いていく東京都選抜チームでの物語を通して、少年たちの成長を追いかけていきます。
『ホイッスル!』©樋口大輔/集英社 3巻より
モチベーションの違うチームメイトたちが、風祭の存在をきっかけに勝利への気持ちを取り戻していく。
弱小チームの桜上水サッカー部が各校をおびやかす存在に成長していく爽快感は、改めて読んでも格別におもしろいです。
同級生の活躍に引け目を感じる高井、自分の望む楽しいサッカーとのギャップに悩む野呂など、弱さを抱えるチームメイトたちの成長に感極まります。これぞ部活動マンガ! と言える名シーンがてんこ盛り。
これも歳を重ねたせいでしょうか、あの頃よりもアツい巨大感情に胸が占領されてとても冷静ではいられません…!
『ホイッスル!』©樋口大輔/集英社 5巻より
『ホイッスル!』がこれほどまでに胸にささる理由はなんなのか。
先述したようなアツい展開はもちろんのこと、今回読み直しながら気づいたのは本作が選んだ道を正解にするための覚悟を問う物語であることです。
桜上水コーチの松下は、サッカーで大切なのは考えることなのだ、と選手たちに教えます。
そして、考え抜いて選んだ先で本気で頑張ることが力になるんだよと語りかけるのです。
なんとも深いコーチからの言葉、いい大人であっても首がもげるほどうなずいてしまいます。
『ホイッスル!』©樋口大輔/集英社 3巻より
それはサッカーのおもしろさを説いているのと同時に、人生を主体的に生きていくための普遍的な教えでもあるんですよね。
愛着のある桜上水から選抜の道へ進む風祭。
父親の後ろ盾を拒絶し茨の道を選んだ水野。
サッカーを捨てたシゲが再びサッカーと向き合うまで。
『ホイッスル!』では、少年たちがあらゆる選択のドアの前に立たされます。
そこで彼らが次のドアを開けるために何を選び、その先にある葛藤とどう対峙するのか。あらゆる選択に立ち向かう勇敢な背中が、読者の胸をつかんで離さないのです。
『ホイッスル!』©樋口大輔/集英社 10巻より
やっぱりカッコいんだ!君たちは!
あらためて、『ホイッスル!』はめちゃくちゃおもしろいサッカーマンガでした。複雑な感情にとらわれる様も、夢を叶えようともがく姿もすべてが尊い。
気づけば週刊連載を楽しみに追いかけていたあの頃の情熱がぶり返して、ほとんど冷静に読めていませんでした。
光輝く彼らの背中に、25年の月日が流れようともどうしようもなく惹かれてしまいます。
『ホイッスル!』©樋口大輔/集英社 3巻より
ひたむきに頑張ることのかっこよさ。頑張る誰かを応援したくなる気持ち。チームスポーツの尊さ。
『ホイッスル!』からもらった熱のおかげで、わたしは今でも部活動マンガが好きだし、Jリーグが好きだし、頑張るだれかの背中を押したいと思えます。
きっと日本中の桜上水サポーターが、同じ熱を帯びながら大人になったんじゃないでしょうか。
2023年は『ホイッスル!』イヤー。ぜひ当時の熱を思い出しながら、もう一度風祭たちとボールを追いかけてみてください!