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『ツチノコと潮風』“未確認”の人生を軽やかに走り出せ!

生物学的に存在がたしかめられていない未確認動物(UMA)として知られるツチノコ。それがタイトルに付され、少女が海辺を自転車で走り抜ける爽やかな表紙に、これが一体どんな漫画なのかまったく予想がつかなかった。

ツチノコと潮風(合本版) 著者:河野別荘地

『ツチノコと潮風』を実際に読むと、転勤で離島へ移住した男と、その島で暮らす姉妹の出会いを中心に展開していくヒューマンドラマ作品である。さっぱりしていながら読者をふわりと前向きにさせる読後感。全2巻のコンパクトな物語ですっと読めるだろう。

で、ツチノコが出てくるのはなぜだったのだろう?

変人の姉、島に縛られた妹

全国チェーンのスーパーの店長として東京からやってきた村田。バイトとして働く高校生・雪下合花に「うちの姉と結婚してくれ」「会ってくれないならバイトを辞める」と脅されるところからドラマは始まる。

合花の姉・月乃は、亡き父が自宅に創設した「ツチノコ博物館」をひとりで守り続け、ときには山にツチノコ探しへ出かけることから、島内で変人扱いを受けていた。

思春期まっただなかの合花は、島の人間から異質なものを見る目にさらされることに耐えられない。そして自分自身がやりたいように振る舞えないことも、島のせいにしてしまう。

“未確認”を生きることのたくましさ

このような合花の態度を、若さゆえの未熟と捉えることはかんたんだ。しかし年齢的に大人になったからといって、誰もが月乃のように「変人呼ばわりされても構わない」という生きざまに至るわけではない。

月乃が自由に見えるのは、確かではないものを確かではないままに受け止められるからではないかと思う。ツチノコがいるのかどうか誰にもわからないのと同じように、自分の未来や他人の気持ちなんて、いつだって確かめることはできない。

つまり、人生とはずっと“未確認”のなかを生きていくこと。正解がないからこそ覚悟で生きていくしかない。月乃はそれを知っているからこそたくましく映るように思う。

不確かだからこそ、潮風に乗って軽やかに

作中では、雪下姉妹とかかわる人の変化がゆるやかに噛み合うように描かれていく。互いが互いに大切なことを気付かされながら、それぞれが小さな行動を起こしてゆくさまを見届けるのが気持ちいい。

ずっと傍観者の立場であった村田が変わっていくようすも見どころ。

ツチノコは生きることの不確かさ、そしてその“未確認”の未来へと突き進んでいく不安と興奮のモチーフなのかもしれない。不確かなまま、それでも進もうとする者の背中を潮風はぐっと後押しし、人生の足取りをちょっとだけ軽くしてくれるのではないだろうか。

執筆: ネゴト / サトーカンナ

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