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『変声』少年から大人へ。BLの枠をこえた人間ドラマ

ふとしたときに、若かった「あの頃」を思い出すこと、ありませんか?

とくに思春期は、他者との違いに気づきはじめ、それまであった根拠のない自信が揺らぎはじめる時期。

そんな子どもから大人へと移り変わる少年たちの心の機微が、丁寧かつ生々しく描かれるはやしわか先生の『変声』をご紹介します。

大人のあなたにこそ、読んで欲しい作品です。

変声 著者:はやしわか

憧れと嫉妬と…いろんな感情を知ってゆく

物語の主人公は、ふたりの中学生。ひとりは、文武両道で、たえず友人に囲まれている人気者の棚橋。もうひとりは、古いレコードやラジオが好きで「いまどき」とはかけ離れた、同級生の中川です。

本作の大筋は、このふたりの恋模様。しかし、今回わたしが注目したいのは、彼らを中心とした「人間ドラマ」です。

周りから見たらタイプのちがう棚橋と中川は、ある出来事をきっかけに親しくなります。

ユニークな趣味をもつ中川と過ごしていると、棚橋は自分まで特別になれたような気がしました。

そして、おだやかに過ごせる時間が、互いにかけがえの無いものとなってゆきます。

ただ、ふたりにとって大切な時間がふえるほど、他の友人たちとの間に亀裂が入り始めます。多感な時期にありがちな問題ですね。

嫉妬や焦りが入り混じった感情に支配され、本音を言えないまま過ぎていく時間が、永遠のように感じられます。

大人だって、やっている

こういった人間関係の悩みは、思春期だけのものなのでしょうか?いいえ、大人のわたしたちにも、身に覚えがあるはずです。

見聞きしたことだけで、その人の全てを理解していると錯覚したり。歩み寄ろうともせずに、誰もわかってくれないと嘆いたり。

自らを省みても、ほんとうの自分なんて、氷山の一角ほども、見せられていないだろうに。

本作に登場する少年たちにも、そんな一面があります。大人になりきれない彼らは、間違えて、ぶつかって、傷つけて…関わりあいの経験値上げの真っ最中です。

それでも、ただ純粋に相手を知りたいと願い、ぶつかることを恐れない少年たち。その眼差しが、まっすぐで眩しくて、羨ましいとさえ感じます。

想像力という名の思いやりを

とはいえ、ぶつかり合って仲直りって、大人にはちょっと体力もたなくないですか?

そんなとき、わたしたちがもつ強力なチカラ、それは「相手への想像力」ではないでしょうか。これにおいては、少年たちより一歩先をいく我らの経験値を信じてみてもいいのでは。

つらい言葉が本音の裏返しだったり、笑顔に隠れたさみしさだったり。想像力をもって接すれば、わかることがあるはずです。

そんなことを意識しながら、年齢と思いやりが正比例する人生を歩みたいものです。

人間関係に答えなんてもちろんなくて、向き合い方も様々。そんな、人としての永遠のテーマに、本作の少年たちの素直なまなざしが、ひとつの在り方を、わたしたち大人にみせてくれます。

執筆: ネゴト / みっちー

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