ebook japan

ebjニュース&トピックス

【マユリカ・中谷祐太と漫画】漫画家から芸人へ。“自己顕示欲が強いオタク”の漫画との付き合い方

テレビ、ラジオやTwitterなど各所で漫画好きを公言し、過去に自身の描いた漫画で受賞歴もあるお笑いコンビ・マユリカの中谷祐太さん。

幼少期からずっと漫画を読みつづけてきた中谷さんに、漫画との出会いから今好きな作品、漫画との関わり方までじっくりと語っていただきました。

▼吉本興業・マユリカ 中谷祐太(なかたに ゆうた)

1989年生まれ、兵庫県出身。幼なじみの阪本匠伍に誘われてお笑いコンビ「マユリカ」を結成。2021年のM-1以降急激に注目を集め、現在は劇場やテレビ出演のほかラジオ関西のPodcast番組「マユリカのうなげろりん!!」が続々とリスナーを増やすなど、大きく活躍の場を広げている。

漫画にのめり込んだオタク少年の軌跡

――漫画との出会いについて、覚えていますか?

中谷:最初は『烈火の炎』やと思うんですよね。小学生のとき。もともとアニメ見てて、友達の家で本棚にコミックスを見つけて「これがアニメになってんねや!」と。それをお小遣いで集めるのから始まった感じ。

烈火の炎 著者:安西信行

僕、オタク気質のキモい子どもやったんですよ。親父もそうで、2000年頃すでにヤフオクやってて……早すぎてキモいでしょ(笑)。遊ばないおもちゃを親に売ってもらって、そのお金を烈火のグッズに変えたりしてました。

――それはキモいのでしょうか(笑)

中谷:いや、キモいオタクですよ。たとえば漫画の読者投稿コーナーとかにも結構載ってるんです。たまに僕の名前を見つけて「これマユリカの中谷ちゃう?」って人がいて。

――本名で投稿していたんですか! かわいらしいですね。

中谷:かわいくないやろ何も! 自己顕示欲が強い、イタいオタクやから(笑)。目立ちたがりなんですよ。

――かなり熱心な読者だったわけですね。それが自分で漫画を描く方向に?

中谷:はい。小学校のときオリジナル漫画を描いて見せ合うのが流行って、その延長線で。中学入ったあたりで漫画家さんが使ってる道具があるらしいと知って、「漫画の描き方」みたいな本を買って見よう見まねで、1年半かけて40ページくらいの漫画を描いたんですよ。それがマユリカのPodcastでも話に出てた『BIRTHDAY』です。

――『BIRTHDAY』が初の作品だったのですね? Podcastで配信中のレギュラー番組「マユリカのうなげろりん!!」でこの『BIRTHDAY』が紹介されていましたが、知らない方のために改めて簡単に教えていただけますか?

中谷:誕生日によって各人の使える力が違う世界で、主人公が閏年の2月29日生まれやからちょっと特別……みたいな設定ですね。でも中2が考えたアホみたいなもん(笑)。子どもの考えやから詰めが甘くて。

――その発想がもうワクワクします。漫画は友達と一緒に描きつづけていたのですか?

中谷:や、漫画家志望の人が集まるサイトがあって、そこにチャットがあったんですよ。そこで夜な夜な同じメンバーで集まって朝4~5時までチャットで情報交換してました、やっぱ僕オタクなんで。

――では近くの友達ではなく、インターネットで知り合った方々と支え合いながら?

中谷:そうですね。そこにプロの方もいて、話を聞いているうちに漫画賞に出すという道があるのを知りました。できたものを置いとくだけはもったいないなと『BIRTHDAY』を「週刊少年サンデー」の月例賞に送ってみたら「あと一歩で賞」に引っかかったんです。

――それはすごいですね!

中谷:若いからってだけで。14歳がちゃんと完成させて送ってきてるのは1つラインを超えてるから……始めたのが早かったんです。

「目立ちたい」のベクトルで漫画家から芸人へ

――その後もずっと漫画を描きつづけていたんですか?

中谷:高校時代までずっと内々にネットで漫画描いてたんで、大学でも続けたいとは思ってました。でも、いざ大学入ったら楽しすぎて。友達の家に毎日いたので、あんまり描かなくなってましたね。

――漫画家ではなく芸人になったのはどうしてなんでしょうか?

中谷:そこはかっこいい理由とかないんですよ。大学時代、このまま卒業して就職か、もしくは東京で漫画のアシスタントか……と迷ってて。漫画も伸び悩んでたというか、賞をとれただけでプロデビューもしてないし、どうしようってときに相方が誘ってくれたんです。

芸人はちやほやされたりするんかな? とか、テレビ出れるかもとか、単純にそのミーハーな考えだけで信念とかなんもないんです。目立ちたがりのオタクやったから、芸人やってるほうが目立てるかもしれへんという思考に(笑)。

――そうだったんですね。以前Podcastで「『BIRTHDAY』連載か?」との話もありましたが、今後、芸人と漫画家二足のわらじの可能性はありますか?

中谷:今はM-1もあるしスケジュールを現実的に考えたら厳しくて、連載はいったん保留させてもらってます。器用じゃないんで、ふたつ同時っていうのがすぐは難しそうやなってのはありますね。

ハマるのは「絵の力」と「人間ドラマ」のある漫画

――『烈火の炎』以降はどんな漫画にハマってきたのでしょうか?

中谷:『幽☆遊☆白書』、『HUNTER×HUNTER』、『ぼくらの』、『ガンバ! Fly high』、『SLAM DUNK』とか、あとはあだち充作品です。

――バトル・アクションとファンタジー、あとはスポーツが題材のものが多いですね。

中谷:現実のスポーツはあんまり興味なくて……。あ、でも『ガンバ! Fly high』の影響で体操を始めました。バク転やってみたいと思って、体操部のある中学校を受験したんです。

ガンバ! Fly high 原作:森末慎二 作画:菊田洋之

――公式プロフィールにも特技「バク転」とありますよね。『SLAM DUNK』もスポーツ漫画ですが、どこに惹かれましたか?

中谷:井上雄彦先生の絵かな。かっこよくて見入ってまう。表情、筆で髪の毛描く感じとかあこがれて、絵柄を真似してめっちゃ模写しましたね。小中で自作した漫画はそのまんまの絵柄で描いてた(笑)。

――中谷さんの絵のルーツなんですね。あだち充作品は、Twitterプロフィールに書くほどお好きなんですよね。

中谷:はい! 『タッチ』と『H2』が有名だけど僕は『クロスゲーム』ですね。登場人物の月島青葉っていう女の子があだち充作品で一番好き。ベタなツンデレキャラでかわいいんですよ。『クロスゲーム』はヒロインが最初に死んでしまう「逆タッチ」で、とにかく人間ドラマがすごい。

クロスゲーム 著者:あだち充

というか、あだち充作品はどれも人間ドラマがものすごくて、ほんま泣いてまう。

『幽☆遊☆白書』は当時の思い出込みで大切な作品

――ルーツとなった漫画のなかでも、本日は「これ!という一冊」として『幽☆遊☆白書』をご持参いただきました。

中谷:幽白は衣装のカバーに浦飯チームのピンバッジとか貼ってるくらい、今も好きです。

――『幽☆遊☆白書』で一番好きなシーンはどこですか?

中谷:幽助のプロポーズシーンです。実は自作でスマホケースにもしてて。

――自作ですか! アクションがメインの漫画からそのシーンを選ぶというのは、やはり人間ドラマに惹かれているからですか?

中谷:そうそう、あとなんかおしゃれじゃないですかここ。これ完全に僕だけの感覚なんですけど、幽白って「ちょうどいい」っていうか。たとえば自分が部屋にアニメ版ドラゴンボールのポスター貼るんはなんか違う。『鬼滅の刃』も違う。でも幽白はOKなんですよ。

――なるほど、同じジャンプ漫画でも。そこの感覚って何なんでしょうか。

中谷:それ何なんやろな(笑)。思い入れかな、やっぱり。世代すぎてアニメも見てるし、思い出補正がめちゃめちゃ強い。幽白は漫画自体もちろん好きですけど、それに加えて子ども時代の思い出込みで、大切な作品って感じなんです。

今一番人にすすめたいのは『ダンダダン』

――ルーツの漫画を教えていただいたので、今どんな作品を読んでいるかもぜひ教えてください。

中谷:『ダンダダン』超好きです。自分が漫画家としてやってたらこんなん描きたかった。全ジャンル入ってて、闇鍋みたいやないですか。「混ぜていいんや」っていうその自由さ。

ダンダダン 著者:龍幸伸

あと絵がうますぎる。アクションシーンで擬音を使わずに絵だけで見せてるのがシブい、かっこいい。あとはキャラクターたちが良すぎて、喋ってるだけで持つのも魅力ですよね。あ、今ダンダダンの靴下はいてますよ。

――おお! これは大ファンですね。

中谷:あとは『BLUE GIANT』ですね。ジャズをテーマにした漫画で『ダンダダン』と同じように音が聞こえてくる絵の迫力。あと人間ドラマもすごい。あだち充作品もそうですけど、「現実でそんなかっこいい男おらんやろ」、っていう背中で語る奴がめっちゃ出てくるんですよ。人間ってええなあ……と。音楽の知識とかないけど人間ドラマとしておもしろいです。

BLUE GIANT 著者:石塚真一

――やはり中谷さんにとって、絵の力と人間ドラマがポイントなんですね。漫画はほとんど無限にあって選ぶのが難しいと思うのですが、新しい漫画にはどのように出会っていますか?

中谷:SNSの評判とかもありますけど、周りの漫画好きな芸人が熱意を持ってすすめてくる作品は読むようにしてますね。「◯◯とか、✕✕とか……」じゃなくて「これマジでおもろいわ」ってよっぽどすすめてくるようなものは、経験上本当にいいことが多いんですよ。

――人の「好き」を信用しているんですね。中谷さんが同じように誰かにすすめることもありますか?

中谷:あります! やっぱり今一番すすめたいのは『ダンダダン』かな。

芸人活動が漫画と交差した瞬間

――中谷さんは新作を読むことが多いのでしょうか?

中谷:新作に限らず、昔から好きな漫画も読んでますね。『烈火の炎』もそうですけど、もともとサンデーっ子なんですよ。だからサンデーの賞に投稿してたし、サンデー作品には思い入れがあって。『め組の大吾』と『金色のガッシュ!!』は、今続編やってるんです。続編なんてワクワクする、めっちゃ好きやったもん。ほんまに楽しみにしてる。

め組の大吾 救国のオレンジ 著:曽田正人 その他:冨山玖呂
金色のガッシュ!! 2【単話版】 著:雷句誠

実は去年M-1終わりに『め組の大吾』作者の曽田先生がTwitterでフォローを返してくださって! 「大ファンです」ってDM送ったら「M-1拝見してすごくおもしろかったです、いつか漫画談義したいですね」とか言ってもらえて……ほんまに芸人やっててよかったなと。

――めちゃくちゃいい話ですね……。芸人の仕事が「好き」につながった瞬間ですね。

中谷:子どもの頃めっちゃ好きやった漫画家の先生に、そんなん言ってもらうことなんかないじゃないですか。ほんまにうれしかった!

芸人として、漫画の仕事がしたい

――そんな大好きな漫画と、今後はどう関わっていきたいですか?

中谷:もうベタに「アメトーーク!」で「あだち充芸人」とか「マンガ大好き芸人」とか出たい。あと川島さんと山内さんの「マンガ沼」みたいな……漫画関係の仕事はめっちゃしたいです、何でもいいから。

――では、やはり「自分が描く」というより「読むのが好き」が強い?

中谷:そうそう! とにかく漫画を読むのが好きで、読むことはなんにも苦じゃないしめっちゃ楽しいから、それが仕事になったら最高やなという感じです。しかも(自分が描くより)そっちのほうがオイシイ(笑)。

――“自己顕示欲が強いオタク”ですもんね(笑)。芸人として活動する中で「漫画を読んでてよかったな」と思うことはありますか?

中谷:芸人って結構漫画の例えを出すじゃないですか。そういうときにすぐ反応できる体っていうのと、漫画あるある的なことを大喜利で使ったりとか……大喜利は弱いんですけど。そういう感覚、下地みたいなのはあるかなと思います。

――漫画が大喜利に役立つというのは、芸人ならではの関わり方ですね。

中谷:や、大喜利は弱いんですよ? そこはお願いします(笑)。

――(笑)。でも中谷さんの絵のすばらしさや、『BIRTHDAY』で設定のおもしろさを知っている人からすると、いつかは漫画も描いてほしいなんて思ってしまいます。

中谷:やりたい気持ちはもちろんあります! 子どもの頃からの夢やから何か形になればいいなと。そこは折り合いですね。

――芸人としての、そしていつか漫画家としてのご活躍も、楽しみにしています!

中谷:ありがとうございます! 頑張ります!!

中谷祐太さんの大切な作品『幽☆遊☆白書』を読む

幽★遊★白書 著者:冨樫義博

取材・執筆: サトーカンナ / 撮影: 服部健太郎

「芸人と漫画」バックナンバー

関連記事

インタビュー「漫画家のまんなか。」やまもり三香
漫画家のまんなか。vol.1 鳥飼茜
完結情報
漫画家のまんなか。vol.2 押見修造
インタビュー「編集者のまんなか。」林士平

TOP