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【推しマンガ】少子高齢化、天変地異、社会の分断―― 社会が抱える不安の正体に迫る『ランド』

現代は、「不安の時代」と言われます。急速な少子高齢化の進行、地震などの自然の脅威、格差が引き起こす社会の分断など――未来を案じて、不安が尽きないという人もいるかもしれません。個人が抱く不安はオリのように積もり溜まって、やがて大きなうねりへと変わっていきます。

山下和美の『ランド』は、外界から隔絶した農村が舞台。仮想の世界を設定して、社会が抱える不安の構造を見事に描き出しています。

その村に住む人は、必ず50歳で人生の終焉を迎えます。村人を縛るしきたりで、「あの世」と呼ばれる山向こうに行くのです。人間社会の縮図ともいえる村の様子を、あなたものぞいてみませんか。

ランド 著者:山下和美

杏とアン、双子の姉妹の誕生

そこは四方を山に囲まれて、外界から閉ざされた村でした。山の頂きには、東西南北の方角をつかさどる四体の神像・四ツ神が配置され、村の人々を見下ろしています。

この村では異相の赤子が生まれると、村に災いが降り掛かると信じられていました。あるとき双子の女の子が生まれて、そのうち一人が凶相として生贄に出されることになりました。父親の捨吉は、生贄となる子に「アン」という名を与えて、その名を胸に刻みます。そして西の山にそびえ立つ神にアンを捧げ、自らの両目をつぶしました。捨てた我が子を忘れぬように――。

捨吉は残された双子の片割れに、捨てた娘と同じ「杏(あん)」という名を与えて育てました。それから8年の歳月が経ち、杏は好奇心旺盛な少女に育ちました。

あるとき杏は、幼なじみの平太の父親が「知命(ちめい)」になることを知ります。この村では、50歳になると誰もが人生の終焉を迎えるのです。天寿を全うした人の魂は、鳥によって山の彼方にある「あの世」に運ばれると信じられ、知命という名で崇められていました。

人の欲はすべてお見通し

山向こうにある「あの世」とは、大空を舞う鳥だけが自由に行き来することができます。山向こうから飛来した鳥が落とした袋包みを拾った杏――袋の中には、これまでに見たことがない花の種が詰まっていました。

この種は、「あの世」に咲く花のものなのでしょうか。杏は好奇心をそそられますが、叔母の真理から村の「決まり」を守るようにたしなめられます。

かつて欲にまみれた村人が、神々が住まう山を切り拓いたことがありました。四ツ神を怒らせたことで、村は酷寒や日照り、洪水と相次ぐ天災に見舞われたのです。神々を最も怒らせたのは、人が不老不死への憧れを抱いたことだった――真理は、杏に語ります。

真理から昔話を聞いて、杏の顔は青ざめました。「四ツ神様はみんな あんたを見てるんだよ」という真理。人の欲はすべてお見通しで、この村から誰も逃れることはできないというのです。

人が生きていくには、守らなければならないルールがあることは言うまでもありません。しかし、この村では個人の情報がすべて筒抜けで、人は互いを縛り合って暮らしています。読者は、本作を読み進めるにしたがって、「この世」という世界が人間社会のもつ歪みを象徴していることに気づかされます。

「あの世」の謎は深まるばかり

平太の父親が50歳で知命を迎え、杏も野辺送りの列に並びました。しかし、この日は「この世」を支配する一族の惣領・あやめの葬儀もありました。その葬列と鉢合わせた杏たちは、支配者の神輿に道を譲って、ひれ伏すことしかできません。

獣の皮をかぶり、神輿につき従う神官たち――彼らは、なぜか杏が隠し持つ「花の種」の存在を知っていて、袋ごと奪おうとねらいます。

さらに、杏と同じ年ごろの謎の少女が飛び掛かって、種を奪い取ろうとします。鳥が「あの世」から運んできた種には、どんな秘密が隠されているのでしょうか。

葬列に並んでいた金髪の美少年・和音は、杏に種をまいてみるように諭します。和音は、どうやらこの種の秘密を知っているようです。

あやめの死後、後継者の蓮華(れんげ)が神官たちを率いて村を支配することになりました。しかし蓮華の新しい門出を祝うはずの占いで「凶」が出てしまいます。

人間がもつ無限の可能性を描出

その昔、村に災いをもたらした四ツ神が、再び天災をもたらすのではないか――村人の間で募る不安を鎮めるために、生贄が必要とされるようになりました。犠牲を欲しているのは、果たして神なのか、それとも人間自身なのでしょうか。本作は、見る者に大きな課題を突きつけます。

『天才柳沢教授の生活』『不思議な少年』で、人間の生き方に迫った山下和美。本作では、マンガ原稿の上に実験的な人間社会を構築。箱庭に送り出されたキャラクターは所せましと舞台を駆け巡って、やがて山の彼方に広がる世界へと飛び立ちます。

人は社会に絶望することもありますが、その先には必ず希望があるはず――『ランド』は、人間がもつ無限の可能性を教えてくれる作品です。哲学的な思索を含んでいますが、同時に恋愛やバトル、友情が詰まったエンターテインメント作品でもあります。山下和美の『ランド』で、ドキドキ・ハラハラの冒険を楽しんでください!

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美

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