あなたをまだ知らない“辺境”へ連れ出す、トーチコミックス特集
「トーチ」というサイトを知っていますか?
最近では、トーチで連載中の『自転車屋さんの高橋くん』(松虫あられ)が累計100万部を突破、さらに2022年11月には実写ドラマ化がスタートしたことで名前を知った方もいるかもしれません。
そんな「チャリ橋くん」ブームで創設以来の盛り上がりを見せるトーチですが、当のトーチ編集部は自らをこう呼びます。
「webサイト上にある辺境の観光地」
引用:トーチとは
辺境=中心から遠く離れた場所
ここではそんなメインストリームからはみ出たマンガを世に送りつづけるトーチコミックスの作品をいくつかご紹介。“辺境”からやってきたちょっとクセありのマンガが、あなたにまだ知らない世界を見せてくれるはずです!
『うちのクラスの女子がヤバい』シリーズ(衿沢世衣子)
ぜんぜん使えない超能力「無用力」が思春期の女子の一部に現れる本作の世界。無用力をもつ生徒たちが集められた1年1組を舞台に、力に振り回される本人とクラスメイトのかけがえのない日々をオムニバス形式で描いた青春群像劇です。
『1年1組 うちのクラスの女子がヤバい』第8話
©衿沢世衣子/リイド社
「イラっとすると手指がイカになる」「かわいい!と思った瞬間ぬいぐるみになってしまう」など、女子たちの本当に何の役にもたたない能力が最高にキュート! 次から次に無用力のエピソードを読み続けていくとなんだか夢を見ているような気分に……。
『1年1組 うちのクラスの女子がヤバい』第6話
©衿沢世衣子/リイド社
無用力をトリガーにクラスメイトたちの性格や思春期ならではの悩みが描かれてゆき、さらに彼女たちの無用力を有効活用しようとする人物が現れるなど物語としての読み応えもしっかり。
一度完結した本作ですが、ファン待望の2年編がトーチで連載開始、2022年7月29日についに単行本化を迎えました。
自分ならどんな無用力がいいだろう? とつい考えますが、それで思いつく能力ってまあ有用なものばっかりなんですよ……。あなたもぜひ、衿沢先生の想像力に圧倒されてください。
『太郎は水になりたかった』(大橋裕之)
うだつが上がらない中学生活を送る太郎とその親友ヤスシ、彼らを取り巻く学生たちによる、ずっとアホみたいなのに心がギュッとなる物語。打ち込めるものがなさすぎて「妄想部」に入部したふたりのちょっとした行動がストーリーを大きく動かしていきます。
『太郎は水になりたかった』第1巻 第12話 ©大橋裕之/リイド社
「何かやってやる」という漠然とした決意と、しかし思うようにいかない焦り、不安、嫉妬、劣等感。誰もが抱えるヒリつきや苦しみをゆるい線とユーモアで描き切る本作は、切実なのに静かに笑えて後味がいい。泣きたくなるけど泣かせない……そんな美学すら感じます。
『太郎は水になりたかった』第1巻 第6話 ©大橋裕之/リイド社
ストーリーと直接関係なくてもなんだかグッときたり「たしかに」と思わされたりするシーンが散りばめられており、途中で挟まれる大橋先生の文章もおもしろい。私がかなり「たしかに」と思ったところをひとつ引用しておきましょう。
『太郎は水になりたかった』第1巻 第5話 ©大橋裕之/リイド社
自分で紹介しておいてなんですが「まあとにかく読んでみてよ」と言いたいマンガです。きっとあなたの心にも届くはず。読んでみて!
『大きい犬』(スケラッコ)
タイトル通りすぎて笑ってしまうんですが、なぜかずっとそこにいる大きい犬になぜか犬語をしゃべれる人間 高田くんが出会い、親交を深めていく物語。
『大きい犬』「大きい犬」 ©スケラッコ/リイド社
その他、終始穏やかな空気でありながら「日常系」などと呼ぶにはちょっとファンタジックな世界を描くスケラッコ先生の読み切り6本で構成された短編集です。
最後に収録されている「小さい犬」は「大きい犬」の続編になっていて、こちらもかわいくてちょっと泣いちゃう感じのお話。
『大きい犬』「小さい犬」©スケラッコ/リイド社
他にトーチから出ているスケラッコ先生『平太郎に怖いものはない』『盆の国』は人間と妖怪・幽霊の交流を描いた作品で、こちらもこの世にいる者とそうでない者の交流を描いています。
動物や霊なんかが、私たち人間と同じような居方(いかた)でそこに共存する。スケラッコ先生はそんな世界へのあこがれがあるのではないでしょうか。先生の描くマンガを読んでいると、主人公たちを追体験するようにそういう世界へさらりと導かれていくようです。
『大きい犬』「大きい犬」©スケラッコ/リイド社
人といることに疲れたときや誰とも話したくないようなとき、不思議でやさしくちょっと切ない気持ちになる『大きい犬』の世界へ、よければ立ち寄ってみてください。
『千年ダーリン』(岩澤美翠)
昭和を舞台に、か弱く美しき天才少年・仮初銀色(かりそめぎんいろ)と、銀色と心臓で繋がったサイボーグ・束ノ間一平(つかのまいっぺい)が愛の力で敵を討つバトル・アクション!
『千年ダーリン』第2巻 第12話 ©岩澤美翠/リイド社
バトルものこそ王道マンガじゃないかと思う方もいるかもしれませんが、運命共同体となった少年たちのブロマンスが“辺境”たる所以。ふたりの愛と心臓がバトルの鍵を握るところがポイントです。
『千年ダーリン』第1巻 第3話 ©岩澤美翠/リイド社
孤独な者どうしがひとつになりニコイチで戦うという設定だけで心を奪われてしまうのですが、まるで「ヤン詩」のような、昭和の不良文化的ロマンを感じさせる熱い言葉のオンパレードが読者の心を掴んで離さない……。
『千年ダーリン』第2巻 第9話 ©岩澤美翠/リイド社
岩澤先生のフェティシズムが随所から感じられ、作者自身が「とにかく好きなものを描いてます!」というのが伝わってくるようでニヤついてしまいます。
もちろんバトル・アクション作品としてすばらしく、次々と襲いかかる敵キャラの能力や戦闘シーンも見応えあり。“王道”のバトルマンガに飽きてきて、ちょっとクセありをご所望のあなたにこそ本作が届くことを願っています。
トーチで“辺境”へ旅をしよう
近年では自社主催の漫画賞を設立するなど、常に新しい表現を精力的に追求していくレーベルとしてマンガ愛好家たちから支持を集めるトーチコミックス。
トーチ編集部選り抜きのマンガを読んで、あなたも“辺境”へでかけてみませんか。これまで触れてこなかった、自分のなかに眠っている感性を刺激する作品に出会えるかもしれません。