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マンガで田舎に帰ろう! 美しい夏の情景を堪能できるマンガ3選

夏の田舎はお好きですか?

涼やかな風に包まれようと足を運ぶ方も多いですよね。雄大な自然も魅力のひとつで、守られるような安心感に癒されたりもします。

片や、別世界にトリップしたような感覚を覚えることも。エンタメ作品においてはこれが、神妙でエロチックな風情をつくる装置としても有能です。真夏の田舎の境内に想い合うふたりが揃えばきっと、何か起こるぞと心躍るもの。

この記事では、田舎の魅力をたっぷり閉じ込めた3作品をご紹介します。いつもの場所で過ごす夏はエアコンで涼んでのんびりと、マンガで美しい情景をたのしみませんか?

『君は放課後インソムニア』

まずご紹介するのは、不眠症に悩む高校生ふたりの恋を描いた物語『君は放課後インソムニア』です。

君は放課後インソムニア 著者:オジロマコト

出会いは物置と化した天文台。曰く付きのその場所を、ひとりで寝床にしていた伊咲(いさき)。そこへ、眠り姫を起こすかのように立ち寄ったのが丸太(がんた)です。

秘密の場所で語り合ううちに、憂鬱な日々が特別なものへと変わっていきます。

「自分だけかも」

そんな風に思った瞬間から、不安はどこまでも膨らむものです。多感な時期ならなおさら。たったひとりでも仲間がいれば、ネガティブな気持ちは半分にもそれ以下にだってなり得ます。

堂々とそこに居座るために、ふたりは天文部を立ち上げようと奮闘。ひとりでは想像できなかった未来をふたりで歩みはじめます。

こんな記憶…欲しすぎる…眩しさを放つ青春の1ページ

相棒とのめぐり合いによって瑞々しく輝き出すふたりの表情がとても印象的な本作。そんな彼らの成長を見守るように描かれる美しい風景をご紹介します。

『君は放課後インソムニア』は石川県七尾市が舞台となっていて、その街並みや風景が数多く登場します。

その中でも印象的なのがしっとりと湿る雨のシーン。「力の及ばないもの」として雨が描かれる一方で、丸太と伊咲の関係を深めるのもまた雨なんです。まさに天の恵み。

 

私が特に好きなのは、星景写真を撮るため出かけた合宿でのエピソードです(第6集)。

拠点は伊咲の祖母の家(能登半島の中央)で、昔ながらの一軒家。軒先に海(!)という好立地に恋が捗る予感しかしません。

合宿の半ばに降り続く雨。撮影は一時中断され、ただただ時間が流れていきます。

ふたりひとつ屋根の下in雨に濡れる田舎町。そんなボーナスステージでも、彼らは真面目に過ごそうとします。「いつも通り」を装う姿が、逆に「特別」を証明していて、こんな記憶あるはずないのに、自分ごとみたいにドキドキします。

本作を読むと「叶うなら私の記憶に刷り込んでくれ…!」そんな願望がめぐります。青春の原風景にしたくなるほどの眩しい日々をぜひ覗いてみてください。

『となりの妖怪さん』

続いては、懐かしくも不思議な物語『となりの妖怪さん』をご紹介します。

となりの妖怪さん 著者:noho

本作は、季節ごとにコミックス化されていて、春が満載の第4巻で完結を迎えました。第1巻には暑い夏のエピソードが収められています。

人と「妖(あやし)」が共存していて、それぞれが学び、働き、助け合いながら暮らす世界。舞台はとある山間の町、「縁ヶ森(ふちがもり)」。『となりの妖怪さん』はそこに暮らす人々を描いた群像劇です。

この町に住む人々も今を生きる私たちのように何かを抱えて生きています。猫のぶちおもそのひとり。家族と余生を送っていたら、意図せず猫又になりました。

20年ほど生きてきたぶちおも「妖」としてはまだまだひよっこ。突然手にした「これから」をどう生きるかに悩みます。考えても出口は見つからず、信頼できる人に頼ってゆっくりじっくり目を凝らします。

自分を知ることって大事だけれど、ときには怖かったりもしませんか? 必ずしも、良いところばかりが見えてくるとは限らないからじゃないでしょうか。だからと言って目をそらさず、真摯に向き合うぶちおの姿はとてもかっこよくて応援したくなります。

ちょっと不思議なこの町で

自然豊かな土地は神聖なもの、そんなイメージありませんか?『となりの妖怪さん』は、漠然としたそのイメージに彩を添えてくれます。

お盆にご先祖様が戻ってきたり、山に守り神がいたり。古くから伝わる神秘的なものたちが、住む者たちに寄り添うように描かれています。

たくさん登場する妖怪たちもとっても魅力的。猫又に九十九神、妖怪の総大将まで、多様な者たちがユニークに描かれています。

妖怪が住む田舎町とnoho先生のやわらかなタッチが相まって、昔話のようなノスタルジーな雰囲気が漂う本作。その一方で新しさも感じられるんです。その訳は、違いを認めて共に暮らす理想的な社会が当たり前のように描かれているからかもしれません。

『髪を切りに来ました。』

最後にご紹介するのは、ワケあり親子と離島の人々の暮らしを描いた 『髪を切りに来ました。』。 『最終兵器彼女』でも知られる 高橋しん先生の最新作です。

髪を切りに来ました。 著者:高橋しん

美容師の春田睦(りく)と小学生の一星(いっせい)は、東京から沖縄の離島・「ハルタ島」に引っ越して来たばかり。目的は離島留学、そして親子の時間を取り戻すことです。

「お利口さん」を強いられる環境の中で、不安ばかりが大きくなってしまった一星。そんなわが子が心配で、何事も先走る父親の睦。島とそこに住む人々が、彼らに深呼吸の仕方を教えてくれます。

「あなたのためだから」この枕詞に続くのは、往々にして子供ではなく親の願いではないでしょうか。自分の都合を押しつけて、空回りしてはいないかと自問できる大人でありたい。私が本作を読むたびに思うことです。

ゆったりとした風を感じながら、島の人々と真摯に向き合う春田親子はとっても魅力的。また、島の美味しい郷土料理も必見です!

道草がはずむ田舎の帰り道

作中に、一星が楽しく道草をしながら帰るシーンがあります。まだまだ都会っ子な雰囲気の彼と田舎のコントラストが印象的です。

引っ越してすぐは緊張気味だった一星。それでも、(屋根に穴が開いているので)星空に見守られながら眠れる新居や、三線を教えてくれる年上の友人など、沢山の初めてを経験しながら一歩ずつ成長していきます。

アリの行列や空を飛ぶ鳥の影、どこかから聴こえてくる三線の音…何にでも興味津々。なんて事ないワンシーンに、素直でまっすぐな一星の可愛さが存分に表されています。

アリや鳥はどこへ行くの? その綺麗な音色はどうやって出してるの? そのワクワクに意味なんていらないはず。

本作を読むと、道草を楽しめる大人でいたいと思うのです。

マンガを読んでどこへでも行こう!

夏の田舎大好き!な方にも、虫さえいなきゃな…なんて方にも、おすすめの3作品をご紹介しました。それぞれの表紙にもその土地の良さが表されているので、そちらも是非注目してみてください!

マンガはどこへだって連れて行ってくれます(苦手な虫もちろんもいません!)。この夏は、自分好みの風景を求めてマンガで旅をするなんてのもいいかもしれませんね。

執筆: ネゴト / みっちー

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