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『年年百暗殺恋歌』暗殺稼業を請け負う一族の近くて遠い主従恋愛譚

草川為先生の『年年百暗殺恋歌』は、暗殺を生業とする一族、灰星家の娘・鷹十里(たかとり)と、彼女が幼い頃に助けた少年・雷火(らいか)との想い合うゆえに、すれ違う恋心を描く物語です。

年年百暗殺恋歌 著者:草川為

パッとしない娘と美形の少年

幼い頃から美しかった雷火は親に売られ、売られた先から逃げていたところを鷹十里に助けられ拾われます。雷火という名は、鷹十里がつけたもので、この時から雷火は鷹十里を「姫様」と呼び、密かに慕いつづけています。

パッとしない容姿でどこにでも溶け込める鷹十里は、暗殺を請け負う灰星家の娘。雷火がどんなに想っていても、主である鷹十里と結ばれることはありません。しかし、雷火は鷹十里がどこに嫁がされようと、一番の力になると心に決めていたのでした。

弟から兄への殺しの依頼

灰星家に届いた次なる依頼は「上奥瀧(かみおくだき)家領主の急死の原因を探り、容疑者の長男を殺す」こと。上奥瀧家の長男・芹生(せりょう)は、妾腹のために家督を次男・石和(いさわ)に譲らなければならず、領主の殺害にも関与した疑いを持たれていました。

鷹十里と雷火は、灰星家当主から証拠を掴み次第、殺害せよという命令を受け、上奥瀧家の承継の儀に潜入します。上奥瀧家の領主は毒殺とされていますが、果たして本当に芹生が殺したのか。それとも何者かが、芹生に罪をなすりつけようとしているのでしょうか。鷹十里と雷火が調査を進めるほどに、上奥瀧家の複雑な人間関係が浮き彫りになっていきます。

想い合うゆえにすれ違う

緊迫した潜入捜査の中、結ばれることはなくても、一生、鷹十里についていくと決めている雷火。しかし、鷹十里はそんな雷火の想いを知ってか知らずか、そっけなく接するのでした。

暗殺を生業とする灰星家に生まれた鷹十里は、人を殺すことを宿命づけられています。ですが、雷火は違います。人を殺すという暗い業に、雷火を引きずり込んでしまったのではないかと、鷹十里は思い悩んでいたのでした。雷火が大事だからこそ、もう手を汚して欲しくない。それが鷹十里の願いだったのです。

感情のない鷹十里の心が動く時

人を殺すことに慣れた鷹十里は、殺しの後でも大きく感情を揺らすことはありません。一方、鷹十里と比べると雷火のほうは、彼女の挙動に一喜一憂してしまっています。しかし、人形のように淡々とした表情の鷹十里も、雷火のことになると顔を赤らめたり、任務中にぼんやりしてしまったりするのです。まるで、雷火が彼女の身体に魂を戻してくれたみたいに。

お互いに想い合っているのだから、どちらかが気持ちを伝えてしまえば、通じ合うはず。ですが、主従関係や稼業に縛られて、どちらも告白までには至りません。告白して断られてしまうよりは、あいまいにしておいたほうがずっと一緒にいられます。そう割り切っていても、伝わって欲しいと思ってしまう自分の気持ちに、雷火はさらに苦しむのでした。

主従という関係性も暗殺という稼業からも離れて、二人の想いが結実することはあるのか。切ない両片想いの恋愛譚、ぜひ読んでみてください!

特に、単行本のカラー扉絵の美麗イラストは必見ですよ!繊細なグラデーションと色合いの二人をぜひ堪能してみてくださいね!

執筆: ネゴト / みじんこ

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