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将棋に出会った天才少女の物語『龍と苺』命懸けの勝負への渇望描く

柳本光晴先生の『龍と苺』は、生ぬるい日常に退屈していた中学二年生の藍田苺が将棋に出会い、命懸けの勝負の世界に没頭していく物語です。

龍と苺 著者:柳本光晴

命懸けで何かしたい

中学二年生の藍田苺は、いじめをしていた同級生を椅子で殴ったことがきっかけで、スクールカウンセラーの宮村に出会います。苺は、いじめられた子を救おうというよりも、本気のケンカがしたかっただけ。日常が生ぬるくて気持ち悪いのだと、苺は宮村に語ります。

宮村は尖った性格の苺に、昔の学生たちを重ね合わせ、懐かしく感じながらも苺を将棋に誘います。勝負を受けた苺は、宮村との対局に命を賭けようと言い出すのでした。

負けたほうは自分で死ぬこと。淡々と宮村の前にハサミを置く苺の姿に、宮村は彼女の本気を感じ取ります。

将棋の天才「苺」誕生

一手指すごとに強くなる苺に、将棋の圧倒的な才能を見出した宮村は、彼女を将棋の世界に導きます。宮村の勧めで苺は、市の将棋大会に参加しますが、ここでも苺は二十年以上将棋を指しているベテランに勝利。苺の才能は本物でした。

どこに行っても現れる「性別の壁」

圧倒的な才能を見せつける苺でしたが、常につきまとうのは「女に将棋ができるわけない」という一言。苺の対戦者たちはみんな、初心者の女の子に負けるわけがないとタカをくくっていました。しかし、苺との対戦が終わった後には動揺し、この勝負は本気じゃなかったのだと言い訳を始めます。

性別も年齢も関係なく、盤上で本気のケンカをしたかった苺は、その言葉に誰よりも傷つくのでした。

命を賭けるとは

命懸けでやってるっていうセリフは、誰もが日常で一度は口にしたことがあるんじゃないでしょうか。本気ですと口にした言葉は、どれだけ本気だったのでしょう。有名人の言葉を借りてるだけで、分かった気になっていたことはなかったでしょうか。

苺には、相手のうわべを剥がしとる強さと誠実さがあります。彼女と向き合うと、隠していた自分の本性が暴かれるようにも感じます。

女性棋士は一人もいない

日本には女性だけで公式戦を戦う女流棋士という制度があります。これに対して、男性棋士と同じ奨励会に入って、四段に上がった女性を女性棋士と呼びます。しかし、2022年3月現在、これまでに女性棋士となれた人は一人もいません。

女流棋士は1974年に女流名人戦創設を機に生まれたもので、女流棋士になるためには、日本将棋連盟が主催する「研修会」で2級以上になる必要があります。将棋の世界で女性がプロ棋士になれないのは、本当に男女の脳の違いによるものなのでしょうか。

『龍と苺』には、苺以外にも将棋の強い女性が登場します。果たして彼女たちは将棋の世界の常識を覆すことができるのでしょうか。しかし、プロの世界には、天才・苺ですら、秒で打ち負かすほどの猛者がひしめき合っています。

苺が命懸けになれるものとは

将棋に命を賭ける奨励会員たち。しかし、苺は才能はあっても、将棋が好きなわけではありません。くだらない勝負に命を賭けたいけど、将棋のために死にたいとは思えないと苺は言います。

将棋に人生を賭けている人たちと、勝負に命は賭けたいけど将棋には命を賭けられない苺。何に命懸けなのかはともかく、誰よりも強くなりたいという苺の狂熱がほとばしる『龍と苺』。

ぜひ、読んでみてくださいね!

龍と苺 著者:柳本光晴

執筆:ネゴト / みじんこ

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