『オールドファッションカップケーキ』大人の等身大な葛藤に心揺さぶられるBLマンガ
ルーティン化された毎日になんだか疲れてしまった時に読んで欲しいマンガ『オールドファッションカップケーキ』
2度目の成人を目前にして無気力になってしまったサラリーマンが、部下との恋をきっかけに人生に輝きを取り戻していく物語。第12回BLアワードでは堂々の第1位に選ばれるなど、今注目のBLマンガです。
ジャンルはBLですが、作中で描かれる人間ドラマには年齢性別関係なく、楽しめる要素が詰め込まれています。今回は、そんな心揺さぶられる本作の魅力を語ります!
「女の子ごっこ」をきっかけに変化していく上司と部下の関係
40歳を目前に、仕事も私生活も保守的になっている主人公野末(のずえ)。
人間関係は必要最低限、恋人は作らない。新しいことに挑戦する気力もなく、ひたすらルーティンワークをこなす毎日。それでもいいと思っているはずなのに、野末は憂鬱な気分を拭えずにいました。
ある日、部下である外川(とがわ)と仕事での移動中のこと。駅のホームではしゃぐ女の子たちをみてふと、野末がつぶやきます。
「女の子同士っていいよな。」
この一言をきっかけに、外川によるアンチエイジングと称した「女の子ごっこ」を開始。
話題のパンケーキを食べに行ったり、スマホで写真を撮ったりと、2人は女の子さながらに楽しみます。
そうして新しいものに触れるうちに、野末の心境に変化が。
野末は自分を慕ってくれる外川をだんだんと愛おしく思い始め、次第にその色は濃くなっていきます。
同じ職場の上司と部下。10歳も離れた年齢の差。男と男。
あらゆる固定概念に雁字搦めになった野末の葛藤模様に心揺さぶられます。
行間の濃さを味わう
野末と外川の恋愛模様はもちろん、見どころではあるのですが……筆者が感じた本作の魅力は、ずばり行間の濃さ。
文章にはない意図や意味を察することを「行間を読む」と言いますが、本作はまさにその表現がぴったり当てはまる作品なのです。
例えば、外川が野末のアンチエイジングを手伝いたいと言う場面での1コマ。
「オールドファッションカップケーキ」より
実はこのコマの前に店員さんから外川だけコーヒーのおかわりをもらっています。外川がおかわりをもらったということは、まだ帰りたくないという意思表示とも受け取れますね。
そこからもう一度先程のコマを見てみると、冷めきってしまった野末の心をどうにかしたいと思っている外川の熱意と、心ここに在らずな野末といった対照的な2人の心情が描かれているように思えませんか?
セリフや言葉ではっきり表現していないからこそ、読者は彼らの感情や背景に想いを馳せることができる━━まさに行間を読んでいるかのような深い楽しみ方ができるのも本作の魅力なのです。
また1コマにここまで意味を持たせることのできる佐岸左岸先生の描写力と表現力に感服します。本作を読む際にはぜひこうした行間の濃さも味わってみてください。
胸を打つ名言の数々
作中で語られる言葉の中には、胸を打つ名言もたくさん散りばめられています。中でも筆者が1番印象に残ったのが、野末の言葉です。
「…もっと俺は俺だけの経験値を生かして楽しんだり楽しませたりするべきだよね。」
積み重ねてきたものが大きければ大きいほど、人は臆病になってしまいがちです。しかし積み重ねたからこその楽しさがあるのだと、このセリフにはっとさせられました。
繰り返される毎日に、自分はどんなトッピングをしようか。読んだ後そんなわくわくした気分にもなれる『オールドファッションカップケーキ』。人生の指針にもなる一冊をぜひ読んでみてください。