【推しマンガ】空港は、人生が行き交う交差点!読めば旅に出たくなる新感覚の航空コメディ!!
人は、旅をするために飛行機に乗るんじゃない、飛行機に乗るために旅をするんだ――この言葉をモットーとする竹内課長は、根っからの航空オタク。そうとも知らない若手社員の桐谷は、竹内とともに飛行機で出張に赴くことになりました。
竹内課長は、航空機はもちろん地方の空港まで、空のことならオールマイティに網羅しています。仕事をさておき、飛行機や空港の魅力を部下に叩き込む会社の有名人なのです。そんな部長に素養があると見込まれた桐谷は、一人前の会社員として、そして立派な航空オタクとして成長を遂げていきます。
羽田や関空、ローカル空港。ANAにJAL、LCC……。空の基本の「キ」から、マニアックな話まで「空の楽しみ方」を教えます! 前代未聞の航空コメディの旅へ、いざテイク・オフ!!
飛行機はただの交通手段ではない
新人会社員の桐谷は、初めての出張に出ることになりました。行き先は北海道新千歳空港で、竹内課長に同行してもらう予定です。じつは桐谷は、これまで飛行機に乗った経験がありません。女性社員たちが「怖い? 楽しみ?」と問い掛けますが、桐谷は「所詮 ただの交通手段です」と、超タンパクな回答をしています。
しかし、飛行機は単なる交通手段ではありません。竹内課長は、桐谷に空の洗礼を受けさせるため、羽田空港こと東京国際空港の展望デッキに呼び出します。
『前略 雲の上より』©竹本真・猪乙くろ/講談社 1巻P008_009より
羽田空港は、日本最大の空港であり首都東京の窓口です。飛行機の発着数も非常に多く、分刻みで離発着を繰り返すさまはダイナミック! 展望デッキに降り立った桐谷は、眼下に広がる航空機群に思わず見とれてしまいます。
竹内課長は、デッキがオープンする早朝6時30分から、2時間もここにいたといいます。展望デッキの醍醐味を「鼻と耳で楽しむものだ」と語る竹内課長。燃料の匂い、ジェットエンジンの音を楽しむというマニアぶりに、桐谷は圧倒されてしまいます。
飛行機に搭乗すると、課長は桐谷を窓際の座席に座らせました。それまで空に興味のなかった桐谷ですが、光あふれる雲海を見たことで得体の知れぬ感情を覚えています。やがて新千歳空港に着いた桐谷は、課長に展望デッキへの案内を頼むのでした。
関空には展望デッキがない
初めての出張で、展望デッキの楽しさを知った会社員の桐谷。課長から関西国際空港の展望デッキに呼び出されますが、パンフレットを見ると空港ターミナルビルには展望デッキがありません。
関西国際空港の自慢は、「展望デッキ」ではなく「展望ホール」。「関空展望ホール スカイビュー」という別棟に、無料シャトルバスで行く必要があります。果たして、桐谷はスカイビューに無事たどり着くことができるのか――この待ち合わせは、竹内課長が桐谷に課した試練だったのです!
『前略 雲の上より』©竹本真・猪乙くろ/講談社 1巻P043より
竹内課長は、「初めての空港で展望デッキへの道を探す… これを超えるアトラクションはどの遊園地にも存在しない」といいます。説得力があるような、ないような……課長の名言(迷言?)が、読者の笑いを誘います。
スカイビューは、いわば空のエンタメ的施設。竹内課長は、スカイビューの中にあるレストラン「レジェンド オブ コンコルド」(現在閉店)に桐谷を連れていきます。ここは、日本では数少ない国際線機内食を提供するレストラン。テーブルも、滑走路を模しているという航空ファン垂涎のスポットです。桐谷が注文したのは「体験機内食A ブレイスドビーフ リヨネーズソース」。滑走路を見下ろしながらのぜいたくな食事に、桐谷は舌鼓を打ちました。
人生が行き交う地方空港
竹内課長と桐谷は、山形県にやってきました。降り立ったのは庄内空港、その愛称は「おいしい庄内空港」です。桐谷にとって、地方空港に降り立つのは初めての経験でした。
竹内課長は、地方空港の魅力について「その地方の名物が全て 集まってる事だ」と語ります。山形名産のさくらんぼを購入した竹内課長は、桐谷を展望デッキに連れ出して食べさせます。そこには、旅立つ息子を涙で見送る老夫婦がいました。機内から見えないにもかかわらず、手を振り続ける老夫婦。その姿に、桐谷は疑問を抱きます。
『前略 雲の上より』©竹本真・猪乙くろ/講談社 1巻P083より
無事商談を取りまとめた竹内課長と桐谷。竹内課長の差配で、帰路は庄内空港ではなく、同じ県内にある山形空港からの出立となります。
山形空港の出発ロビーには、3年ぶりの帰省にもかかわらず、母親とケンカしてしまった娘がいました。母親は、出発ロビーのガラス越しに娘を見送りますが、娘はつまらないプライドを捨てきれず母を無視します。しかし母の愛情を感じた娘は、ひそかに機上で涙を流すのです。
地方空港の中には、一日に数便しか就航がない小規模の空港もあります。しかし、だからこそ大空港では埋もれてしまう人々の想いが浮かび上ってきます。地方空港は、飛行機への愛、地元への愛、そして家族への愛が行き交う交差点なのです。桐谷は、新たな空の魅力に気づかされました。
空の楽しみ方はあくまで自由!!
竹内課長と桐谷のコンビは、北は北海道女満別空港、南は沖縄・那覇空港まで、縦横無尽の旅を繰り広げています。あくまで商談が目的の出張旅行ではありますが、その過程で出会う空の魅力が仕事の疲れを癒してくれます。
航空マンガというと、専門的な知識が必要……という印象があるかもしれませんが、空の楽しみ方はあくまで自由。眺望を堪能するのもよし、全国各地の「空弁」などのグルメを楽しむのもよいでしょう。『前略 雲の上より』は、飛行機出張をするビジネスマンはもちろん、幅広い読者の方に楽んでいただきたい作品です。これからの行楽シーズン、本作を読めば空の旅が一層楽しくなること請け合いです!
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美