ebook japan

ebjニュース&トピックス

実際に頼める!心もお腹も楽しい『おとりよせ』マンガ

世の中には「実在する店」が登場するグルメマンガがたくさんあります。どれもおしゃれで、おいしそうで、一度は行ってみたいと思う店は数知れません。しかし現実的には遠方の店であったり、高価な店であったり、気安く訪れることは難しい場合もよくあります。行きたいのに行くことができない。店が世界のどこかに実在するということが、むしろ歯がゆさにつながってしまうこともあるのです。

そんな歯がゆさに対する最適解こそが「おとりよせ」なのです。全国どこからでもボタンひとつで注文することができ、ほしいと思った衝動をすぐ実行にうつすことができる。「おとりよせ」は時間も空間も飛び越える魔法の言葉なのです。

この記事では、そんな悩めるあなたの救世主になりえる「実在するおとりよせ」をあつかったマンガを紹介いたします!

『おとりよせ王子 飯田好実』

最初に紹介するのは『おとりよせ王子 飯田好実』。全7冊が刊行されており、2013年に実写ドラマ化もされた人気作品です。

おとりよせ王子 飯田好実 著者:高瀬志帆

SEとして働く主人公、飯田好実(いいだ よしみ)は、毎週水曜日のノー残業デーを心待ちにしています。それは飲みに行けるからでもなく、デートの予定があるからでもなく、頼んでおいた「おとりよせ」を受け取ることができるから。

第1話で取りよせるものは「卵かけご飯セット」。料理としてはごくありふれた、簡素な料理と言ってもよいでしょう。作ろうと思えば、近所のスーパーで買いあつめた材料で今すぐにでも作ることができます。
しかしそんな日常的な料理を、あえて少し高いお金をはらい、ひと回りグレードの高い食材を取りよせることで生み出されるちょっとした贅沢。そこにはうっすらとした背徳感もただよいます。

自分の選択は正しかったのだろうか?今月は「おとりよせ」にお金を使いすぎているんじゃないか?そんなあふれ出す様々な感情を、最終的にその暴力的なおいしさですべて帳消しにし、ただただ満足感を残していってくれることが「おとりよせ」のおおきな魅力なのです。

作中、主人公は「おとりよせ」した商品をちくいちTwitterにてレビューをしています。
そして実際にTwitterには「飯田好実」という名義でアカウントが作られており、「おとりよせ」商品のレビューがおこなわれているのもニクイ仕掛けです。

『おとりよせしまっし!』

ふたつめに紹介する作品は『おとりよせしまっし!』。主人公はアパレルデザイナーをしている女性、加賀ひまり。リモートでの仕事や、飲み会などが増えるなか、家に居ながらにして各地のおいしいものを堪能できる「おとりよせ」にはまってしまう現象はある意味当然の流れでしょう。

おとりよせしまっし! 著者:ちさこ

第1話でおとりよせしているものは金沢のローカルビール。仕事にも全力で打ちこんでいるがゆえに日々のストレスを解消するため、お酒やそのアテになりそうなものが多数出てくるのも特徴のひとつです。

今作に出てくる「おとりよせ」は、日本に数ある「おとりよせ」のなかから「北陸地方のもの」だけに限られています。実はヒロインの加賀ひまりは、先生の前作であり、北陸ネタ満載の学園コメディである『北陸とらいあんぐる』の主人公と同一人物。先生の地元愛が、「おとりよせ」というテーマでも強く表れた一作となっています。

また、ゆるやかながらも百合マンガとしての側面もあります。主人公およびその周りのかわいらしい女の子たちとの関係性がすこしづつ変化していく様を、取りよせた品々と一緒に堪能するのはいかがでしょうか。

『おとりよせっていいな。』

「おとりよせ」の妖精とともに先生自身が進行役となり、次から次へと「おとりよせ」を紹介していくコミックエッセイが『おとりよせっていいな。』です。

おとりよせっていいな。 著者:藤沢カミヤ

1話が4ページというかなり短いスパンで進んでいくため、単行本1冊で紹介される「おとりよせ」はなんと28個。お菓子にジャムに納豆やジビエまで、ありとあらゆる食品を取りよせ、紹介していきます。
特にバウムクーヘンに関しては作中で4話も取りあげられており、「バウムクーヘン1本焼き」など、なかなか頼む機会のすくなさそうな商品もあって興味がつきません。

見た目や味はもとより、「おとりよせ」が入っている容器のデザインや、包み紙のかわいさなども含めて紹介してくれるので、実際に頼んで、届いたときの感動をあますところなく伝えてくれています。
そのときの気分と状況にあわせて、ちょうどいい「おとりよせ」を選ぶのは結構大変なものです。しかしそんなときにこの1冊があれば強い味方になってくれるでしょう。

『先生のおとりよせ』

2022年に実写ドラマ化されました。実在する「おとりよせ」を軸に、中村明日美子先生と榎田ユウリ先生によるマンガと小説のリレー形式でつむがれる作品です。

先生のおとりよせ 漫画挿絵:中村明日美子 小説:榎田ユウリ

主人公は仕事でコラボ企画を提案されたベストセラー作家と人気少女マンガ家。どちらも「おじさん」と呼ばれてもまったく否定できない三十路超えの男性です。性別を勘違いしていたこともあり、初対面での印象はそりが合わなさそうというもの。
しかし「おとりよせ」という共通の趣味と、美人編集長にほだされて無事、企画はスタート。実はマンションの部屋が隣同士であることも判明し、ふたりの「おとりよせ」ライフは加速していきます。

通常時はいがみあう関係であっても、おいしいものを目の前にすれば口元がゆるくなるのは至極当然。物語のなかに自然に出てくる「おとりよせ」をキャラクターと一緒に味わいながら、「おとりよせ」を間に挟んだつかず離れずのふたりの関係性も楽しめる。そんな「物語」も「おとりよせ」も堪能できる作品となっています。

『おもたせしました。』

最後に紹介するのは『おもたせしました。』です。『東京トイボックス』などのうめ先生による作品で、厳密にはこちらは「おとりよせ」マンガではありませんが、実際に「おとりよせ」可能な食べ物がたくさん出てきます。

おもたせしました。 著者:うめ(小沢高広・妹尾朝子)

主人公、轟 寅子(とどろき とらこ)は、叔母の仕事を手伝っており、あいさつ回りや資料の貸し出しなどで、頻繁に取引相手のもとを訪問します。そんなときに手ぶらでいくのもなんですから、毎度、気のきいたお土産を持っていくわけです。頻度が高いですから自然と持っていくお土産も洗練されたものになっていきます。
そうやって選びぬかれた、実在する「おもたせ」を紹介してくれるのが今作『おもたせしました。』なのです。

通常、お土産で持っていっただけなら渡して終わりのはずです。しかし寅子の隠れた魅力のなせる技なのか、態度に現れてしまっているのか、毎度毎度ご相伴にあずかり、持っていったはずの「おもたせ」を一緒にいただくことに。その上、だいたいなんらかのお酒もいただきます。

極上の「おもたせ」に舌鼓をうち、アルコールで気持ちよくなって、毎度持っていった「おもたせ」に関するうんちくを披露。それも「おでん」の「でん」の由来や、フランス料理の「パテ」がはじめて登場した日本の文学作品など、どれも興味深いうんちくばかり。

出てくる「おもたせ」のおいしそうな様に胃袋を満たされ、芳醇な情報に頭を満たされる。そんな重層的な満足感を得ることができる作品です。

「おとりよせ」マンガはかゆいところに手が届く

かゆいところに手が届く存在はいつの時代でも尊いものです。単に「おいしそう」だけで終わらず、実際にボタンひとつで頼むことができ、自分自身の舌でも堪能することができる情報にあふれた「おとりよせ」マンガは、まさにそういった尊い存在と言っていいでしょう。

登場する「おとりよせ」商品は、連載時点で通販可能だったものになりますので、現在もおとりよせが可能かどうかは確認が必要です。また『おもたせしました。』に関しては、店におもむいてテイクアウトすることは可能でも「おとりよせ」としては扱っていない商品もあります。

どの「おとりよせ」マンガも、「おとりよせ」も極上のものであることは間違いありません。ぜひ、みなさん自身の目と舌で感じてもらえればと思います。

執筆: ネゴト / たけのこ

関連記事

インタビュー「漫画家のまんなか。」やまもり三香
漫画家のまんなか。vol.1 鳥飼茜
完結情報
漫画家のまんなか。vol.2 押見修造
インタビュー「編集者のまんなか。」林士平

TOP