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『神様を殺す子供たち』親ガチャに失敗しても母親から離れられないとしたらそれは愛か依存か

「親ガチャ」という言葉が流行ったのは、自分の親のおかしさを自覚できた元・子どもたちが多く存在しているからだ。呪縛の渦中にいる間は「親ガチャ」で失敗したかなんてわからない。『神様を殺す子供たち』は「親ガチャ」に失敗した子どもが、そこから抜け出すまでのストーリーだ。

神様を殺す子供たち 著者:小宮みほ子

親ガチャ子ガチャ

量販アパレル店のパートで働く母親と二人暮らしの史絵莉は29歳。夕飯はいつも母親と一緒、休みの日も二人で出かける仲の良い母娘だ。

でも、彼女はみんながお昼を食べる休憩時間に外出し、幼馴染の大輝と秘密の時間を過ごしていた。

母親は、娘がこんなことをしていることを知らない。そんな母親のパート先に、村沢さんという女性が新しく入った。彼女は大輝の母親だったのだ。明るくて積極的な彼女は、半同棲している年下の彼氏の話をしてくる。

史絵莉の母親はそんな彼女がいけすかないようで、帰宅すると史絵莉に愚痴るのだった。

べったりと依存してくる母親に笑顔で応えながらも、史絵莉は時折、強烈な思いにとらわれることがある。

「お母さんのこと殺したくなるんだよね」

母から離れたいけれど離れられない共依存状態

でも、依存しているのは史絵莉の方も同じなのだ。知り合いと遊びに行く時には母親におうかがいを立てて、外にいる時に母親から連絡が来るとすぐに帰らないといけないと思っている。おかしいと感じつつも、母親から離れられないでいる。

他人から見ると「仲がいいね」と言われる二人だが、その実情はドロドロなのだ。

娘を束縛し、絶対に自分の元から去っていかせないように叫ぶ母親。史絵莉はいつも自分の本心を押し込めて、母親に従っている。

心の内側がわかりにくい主人公

本作は、主人公の心の内側がわかりにくい。史絵莉は、無表情か表面的に笑っていることがほとんどだからだ。でも、彼女が感情を見せるのは、大輝に関連する時。

大輝とは体の関係もあり彼氏のように見えるが、違うようだ。

大輝だけに縛られない軽い女のように演じる史絵莉だが、「どんな自分も受け入れてくれたのは大輝だった」と言い、彼が他の女子と仲良くなるのを許せないでいる。史絵莉は本当は、母親と同じ重ーい束縛女なのだ。

一方、大輝の方は、というと…?

史絵莉が本心を隠しているのと同じように、彼も恐ろしい本心を隠していたのだ。

大嫌いなのになぜ彼女と繋がっているのか。それには、二人だけの秘密があったからなのだ。

二人だけの秘密を探る家族たち

この大輝は、複雑な家庭環境だ。汚部屋なアパートに一人で暮らしていて、年下彼氏と半同棲中の母親と弟とは別居している。弟とは父親が違うらしい。

大輝の父親は、彼が小さい頃に自宅で亡くなった。史絵莉と大輝、二人の秘密というのは、ここに関わってくるようだ。

その真相を探ろうと、大輝の母親の恋人が、史絵莉の母親に近づいてきたり、大輝の弟が史絵莉に接近してきたりと、関係性がぐっちゃぐちゃになってくる。

母親だけでなく、大輝やその弟など「圧の強い」人物たちに史絵莉の心は揺さぶられ、彼女はどう行動したらいいのかがわからなくなってくる。意志が強そうに見えた彼女が本当に求めるものとは? これは、29歳の彼女が母親や幼馴染から自立するまでの物語なのである。

執筆:ネゴト /大槻由実子

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