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『透明人間そとに出る』「なるようになるさ」と笑いかけてくれる珠玉の短編集に浸るべし!

「〽ケセラセラ〜」…軽やかな三拍子で歌われるこのメロディを、一度は耳にしたことがないだろうか。「ケセラセラ」は日本語訳で「なるようになるさ」という意味のスペイン語。アメリカ映画の主題歌として日本中に広まった「ケセラセラ」という言葉は、昭和の流行語にもなった。

「なるようになるさ」「先のことなどわからない」…楽しい未来を期待させる歌詞を口ずさむと、胸を圧迫していたもやもやがスッとどこかに飛んでいく。そんな人生のお守りのような「ケセラセラ・イズム」をびびびっと感じるマンガが、路田行先生の『透明人間そとに出る』である。

透明人間そとに出る 著者:路田行

タフで純情なキャラクターたちが過ごす不思議な日常

『透明人間そとに出る』は、日常で起きたちょっと不思議な出来事とそれに対峙する人々のあれこれを描いた短編集だ。

収録されている6篇のおはなしは、切り取り方によってはSF漫画とも読めるし、ラブロマンスにも読める。社会問題をするどく風刺しているようにも感じるし、誰かの日記をただ眺めているようなのんびりさもある。そのどれも正解なようで違っているように感じる、なんだか不思議な作品なのだ。

そんな「型にはまらない」短編たちに共通しているのが、登場人物たちのタフさである。

いろいろあるけど、きっと未来は明るいんだよね

たとえば表題作の「透明人間そとに出る」では、ひょんなことから透明人間になってしまった男性・笹木さんと空想家の女性・三猫さんの出会いが描かれる。2人で楽しい時間を過ごしていても、透明人間である笹木さんは未来への不安を拭えない。そんな笹木さんを追い越して、三猫さんは予想もしなかった方法で彼の「透明人間問題」に介入してくる。

「逆のボタンはかけづらい」では、「お互いの中身が入れ替わる」というとんでもない災難が降りかかった夫婦が登場。2人は性別逆転生活を過ごしながら「これからどうやって生きていくのか」を考え始める。

他にも、クローン人間と人生を歩みたいダイナーの店員、恋人に突然フラれて心の整理が追いつかない彼女、行方不明の少年と不摂生なサラリーマン、雑貨好きの福祉保健課職員とゴミ屋敷などなど、それぞれの登場人物たちは「どうしたらいいの〜」と頭を抱えたくなるようなシチュエーションに直面する。

それなのに彼らときたらどこか楽観的なのだ。向き合っているというか受け入れているというか、とんでもない事態を楽しんでいるように描かれていく。大きな流れに身を委ねられるところが、とても強い人たちだな、と思う。

そして皆、なんやかんやでほっとする結末を迎えてゆくのである。

この「なんやかんや」が本作のキモでもあり、人生ってなるようになるもんだなぁ、どんな物事もきっと明るい方向に転がっていくんだろうなぁ、と強く感じさせてくれるポイントだ。鼻歌を歌いながらスキップしたくなるような…まさに「〽ケセラセラ〜」という明るい歌声がしっくりなじむ短編集となっている。

クセになるかわいらしさが満載の「路田行節」

路田行先生の描くマンガらしさ全開で自由なタッチの数々も、本作の「ケセラセラ」感を増幅させているように思う。キャラクター達は瞳を白黒させたり飛び上がったり、フリーダムなリアクションで思い思いに感情を爆発させていて、実にかわいらしい。読みながら、にこにこと明るい気持ちにさせられる。

心配事の95%は実現しない、なんていうけれど、次から次へとぐるぐる思い悩んでしまうそこのあなた。鬱屈した気分に風穴をあけたいときに、ぜひ手にとってみてください。

執筆:ネゴト /あまみん

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