『るなしい』恋をしてはいけない「火神の子」の鍼灸院が営む信者ビジネス。売るのは「自己実現」という名の幻?
この人の言うことなら信頼できる。誰にでもそういう「信じる存在」が一人はいると思う。そう考えると、人は皆、何らかの「宗教」に入っているといえるのかも。信じるのは、その人を信じていれば自分の人生がいい方向に向かうと思うからだ。でも、もしかしたら「いい方向に向かう」っていう幻を見せられているのかもしれない…。意志強ナツ子『るなしい』は、信者ビジネスを行う鍼灸院で崇められる女子と、そこに入り込んでゆく野心高き男子の話だ。
学校で「宗教の人」と呼ばれているメガネ女子高校生・郷田るな。一部の男子たちにはオタサーの姫状態で崇拝されているが、その他大勢のクラスメイトには変人扱いされ、いじめられている。るなの家は鍼灸院で、彼女は「火神の子」と言われ、鍼灸師の祖母と二人暮らしだ。鍼灸院では、処女のるなの血を染み込ませたもぐさ・5万円。非常に高額だが、客からはよく効くと評判だ。
『るなしい』©意志強ナツ子/講談社 1巻 1話より
隣に住む幼馴染みのスバルは、るなの家と関わることを親に止められているが、こっそり仲良くしているのだ。
『るなしい』©意志強ナツ子/講談社 1巻 1話より
クラスの人気者・ケンショーは、教室でいじめられているるなに普通に話しかけ、距離を一気に縮めてしまう。男子は自分をいじめるか、崇拝するかのどちらかしかなかったるなにとって、彼はどちらでもない新しい存在になった。
るなの家のもぐさのお灸が高額すぎることに、普通のよりちょっと効果が高いの、と彼女は言う。
『るなしい』©意志強ナツ子/講談社 1巻 1話より
この言葉で、ケンショーはるなを気に入ってしまう。急接近する二人にスバルはなんだか気が気でない。メガネを外し、メイクをし始め、明らかに恋する女子になってきたるな。
でも、火神の子は恋をすると火の神様に怒られるのだ…。るなは「バチ」があたり、体調不良で学校を休んでしまう。
『るなしい』©意志強ナツ子/講談社 1巻 1話より
るなが元気になった後、ケンショーは鍼灸院に行き、お灸を体験する。貧しい家庭で育った彼には野望があった。「成功したい」と言う彼に、るなは信者ビジネスのやり方を教えていくのだが…。
『るなしい』©意志強ナツ子/講談社 1巻 2話より
この鍼灸院は、願いを叶えたい人の「自己実現」のために、その人にとって大事なもの -家族などを捨てさせ、高額なもぐさを買わせて願いが叶ったらうちのおかげと言い、依存させる。完全に宗教なのだ。
人から金を巻き上げるなんてエグいビジネスだ、るなはやばい奴だ、と一瞬、多くのクラスメイトと同じように思うけれど、るなは最大の犠牲者で、かわいそうな存在なのだ。恋をしても叶えることはできない。なぜなら、彼女は「火神の子」として、鍼灸院の信者に崇められ続ける人生が決められているから。自分の意志でやめることができないのだ…。
『るなしい』©意志強ナツ子/講談社 2巻 12話より
彼女の悲しみは、ケンショーはるなを女として好きではないこともある。良くてリスペクトの対象、悪くて「この女は俺が成功するために使える」というレベルの感情しか持っていないのではないかというところ。思わせぶりな態度で免疫のないるなに近づくやり口は、まるでホストの色恋営業のようだなと感じる。
生々しい匂いが漂うようなかなりクセが強い作品だが、るなとスバル、ケンショーの三角関係が気になる。るなに芽生えたほのかな恋の火は消えてしまったのだろうか。るなは一人の人間として幸せになれるのだろうか。彼女個人の自己実現とはなんなのだろう…。