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『君が獣になる前に』あきらめたら、そこから絶望の連鎖は、止まらない

つらいとき、「助けて」と、誰かに伝えられるだろうか?

そんな気づきをくれるのが、さの隆先生の『君が獣になる前に』。第3回ebookjapanマンガ大賞で堂々の2位を獲得した、本作の魅力をご紹介します。

君が獣になる前に 著者:さの隆

さらっと甘えられる人がいる一方で、そうでない人も、もちろんいるはずで。

その善悪を、言いたいのではありません。ただ、想像力をもって世界を見つめることの大切さを、戦慄走る本作から感じることができる。そんなことをお伝えしたいのです。

獣になったのは、誰だ

とある年の瀬、都内ターミナル駅で起こった毒ガステロ事件。実行犯である、若手人気女優の希堂琴音(きどう ことね)はその場で死亡します。

死傷者数“666”人になぞらえて、のちに「The Beast」と呼ばれることとなる史上最悪のテロ。あまりに残忍なこの事件は、琴音とその幼なじみの神崎一(かんざき はじめ)を中心に、さらに悲惨な現実を生んでいくのです。

共に両親を亡くしたふたりの、絶望の連鎖によって、戦慄のサスペンスが幕を開けます。

はかり知れない、絶望のなかで

あるとき神崎は、事件を追うなかでタイムリープ(死に戻り)をすることとなります。

「テロを未然に防いで、幼なじみを助けたい」

その強い思いから、タイムリープを繰り返します。

しかし、どう立ち回ろうと、琴音を止めることはできません。そこには、彼女が抱える絶望の大きさが表されているように感じます。

なぜ、テロを起こすことになったのか。なぜ、同じ結末しか得られないのか。読者の脳内には、常に疑問符がめぐります。

そんな不確かな物語の中で、ある一つの言葉が、悲劇回避ルートへのキーワードではないかと筆者は思うのです。それは、

「助けて」

です。

それだけのこと、かもしれない

慣れないことや、知らないことは誰だって怖いですよね。

例えば「おはよう」って言えますか? 多くの方は、抵抗がないでしょう。きっと、毎朝のように誰かに伝えていますよね。

では、「好きです」はどうですか? だいぶハードルが上がったはずです。それは、慣れていなかったり、照れてしまったり、拒絶されたらヘコむから。

「助けて」これも同じく四つの文字。

ただこの言葉は、人によっては前述した二つよりも、高くて、厚い壁で覆われていることがあります。

理由は、

 ・自分のせいだから

 ・そもそも、諦めてしまっているから

 ・いま以上の絶望が、待っているかもしれないから

など、様々でしょう。

もしも琴音が、誰かに助けを求められたなら、少なくとも作中のような、凄惨な事件は起こらなかったはずです。

あきらめなかった、その先に

誰かに助けを求める。そんな、人によっては何でもないようなことに、勇気が必要な人がいます。

それはきっと、当人だけの問題ではないはずです。

絶望によって、色をなくした世界で、手をとりあって生きるためには、どんなことができるでしょうか。

クライマックスを迎える本作を、私たち読者もあきらめず、見守りたいですね。

きっと神崎や琴音たちが、光を見せてくれると信じて。

インタビュー、編集: ネゴト / みっちー

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