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『原色宝石図鑑』宝石商が魅せる日常の輝き

宝石の美しい輝きは眩しくて遠い憧れの存在。そんな風に思われる方も多いのではないでしょうか。

『原色宝石図鑑』という作品は、大きくて立派な宝石の眩さではなく、小さな宝石が日常の中で輝く美しさを描いています。

原色宝石図鑑 著者:藤田律

舞台は小さな宝石販売会社

宝石販売会社「LUCY」で常に売り上げナンバーワンの男性社員・孤野。

端正な顔立ちの上、お客に高収入で色気ある女性が多い為、色恋営業をしているのでは、と囁かれます。

実状を把握する為、社長の英雄は姪の沢村を新入社員として社内に招き偵察させることに。

結局噂は真実ではなく、孤野の真摯に宝石と顧客に向き合う姿を目の当たりにし沢村は尊敬の念を抱くのでした。

孤野の魅力

美しい宝石を見た時に心がときめくのと同じように、孤野という人物の存在は作中の登場人物と私達読者の心をときめかせるんです!

「LUCY」は店舗を構えての宝石販売ではなく、顧客の元に直接出向いたり、移動式で様々な会社へ出店販売する形を取っており、孤野が来るや否や一斉にファンが集まります。

その様子は推しのアイドルに会いに行くワクワクと似ているのかもしれません。

また、顧客である女社長が孤野から指輪を受け取る時「どきどきする!どんな高級店でもこんなときめきは与えてくれないもの」と話していることからも彼が魅力的であることがわかります。

そういうときめきって、モチベーションに繋がりますし大事ですよね!

そして孤野は、値段に関わらず購入した人の心にハリを与える存在である宝石を扱う仕事に誇りを持っており、適当に購入しようとする人には販売をぴしゃりと断るので、その真摯な姿勢を見て更に好感を抱きます。

特に彼の魅力が最大限に描かれているのが第4話「アクアマリン」のエピソード。

作中ではあまり自分のパーソナルな部分を見せていないミステリアスな孤野が、客である一人の女性に恋をしてしまうという感情的な面が描かれています。

普段はどんなにアプローチを受けてもそ知らぬ素振りで揺るがない彼が惚れたのは、以前アクアマリンの指輪を購入して以来挨拶を交わすようになった派遣社員のシングルマザー・池田。孤野自身も母子家庭で育った過去があり、親しみを覚えたのかもしれません。

このエピソードの中で宝石を扱う仕事に就くきっかけになった原体験や、池田への想いが垣間見えることによって孤野という存在が立体的に見えてきます。

更に終盤で、手元のジュエリーボックスを見つめる孤野の表情が何とも言えない切なさに溢れていて非常に印象深く、そこもまたグッと来るので是非読んで欲しいです。 

宝石と出会う女性達

お客として登場する女性達は、日々を懸命に働き、自分へのご褒美や更に頑張る為に宝石を買って身に付け生き生きと輝いています。

けれどその裏では失敗や悲しい出来事も勿論あります。

悲しい出来事があり涙を流す女社長のお客に、孤野は「宝石の原石ってその辺に転がっている石ころみたいなんですよ 大部分を切り落としカットを加えて磨き上げて やっとこれ程に輝くんです 人間も同じだと思いません?色々失って痛い思いをしていくことでカットが増えるんじゃないですか?」と声を掛け、彼女がその言葉で再起するエピソードがとても素敵で、「これから悲しい事や大変なことが起きても、自分を輝かせる大事なカッティング中なんだ!」と、励まされた気分になるのと同時に自分自身もお気に入りの宝石を買いたい気持ちにさせてくれます。

基本的には各エピソードで1種類の宝石をテーマにした読み切りスタイルで、登場する女性達もまた色とりどりの宝石の様に個性が溢れているのでそれぞれの違いを楽しんで欲しいです。

「LUCY」で働く社員の人間模様

孤野以外の社員に焦点を当てたエピソードも充実しています。

入社したての頃の沢村や、その後彼女の後輩になる元ホスト・南が初めて販売契約に至るエピソードでは、商品の魅力を伝える方法、お客に対する想像力とリサーチ力の大事さが描かれ、私自身の現在の仕事の在り方について改めて考えさせ初心に返してくれます。

他にもベテランから中堅の社員、「LUCY」の宝石の調整を行う工房の店主といった人物が幅広く登場し、その人その人で仕事のやり方の違いがあること、そして「あなたから是非買いたい、一緒に仕事がしたい」と相手に思ってもらえる様な人格や立ち振る舞いの大事さが伝わるストーリー性の高さが心地良いです。

宝物の様な作品

『原色宝石図鑑』は、実は女性漫画誌『コーラス』にて連載をスタートし、2008年に第1巻だけ単行本が発行されたのですが、それ以降の続巻の情報が無いままでした。

しかし、2022年『ココハナ』にて新作エピソードが数話公開された後、同年ついに第3巻まで電子書籍化された奇跡の様な作品なのです!

単行本第1巻を宝物の様に持っていた身としては更に宝物が増えたような喜びでいっぱいです。

長い月日を経ても、尚変わらずに美しく佇む孤野の姿は正に色あせない宝石そのもの。

そんな素晴らしい宝石を是非『原色宝石図鑑』でご鑑賞下さい。

執筆: ネゴト /

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