ebook japan

ebjニュース&トピックス

『Shrink~精神科医ヨワイ~』生きづらい世の中に寄り添う心のお医者さん

パニック障害、うつ病、アルコール依存症、摂食障害。このワードを聞いただけでも思わず身構えてしまう方も多いのではないでしょうか。

現在心の病気を患っている日本人は約420万人。総人口の30人に1人にも上るそうです。そして生涯で5人に1人は心の病にかかるとも言われています。『Shrink〜精神科医ヨワイ〜』は現代社会において非常に根深い問題である精神科医療をテーマとした作品です。

Shrink~精神科医ヨワイ~ 原作:七海仁 漫画:月子

誰もが当事者となりえる病

ニュースなどでワードを聞くことは度々あっても、いざ自分が当事者となった際、その事実を受け止めることは容易ではないでしょう。

本作の主人公である精神科医の弱井幸之助先生はそんな精神病との接し方や向き合い方を私達に優しく教えてくれます。

日本と海外の精神科医との距離

精神科にかかるなんて心が弱い証拠。自分はそんなことで病院にかかるなんて、とそんな言葉が頭を過ぎる人もいるかも知れません。

作中では、日本人の約30人に1人が精神病患者であり、アメリカでは約3人に1人が精神病患者である、と紹介されています。単純な比較で考えるとアメリカに比べたら日本はまだマシなのかな、とそんな風に捉えることもできるかも知れません。

しかし裏を返せばちょっとしたことでも気軽に相談出来るほどアメリカでは精神科医という存在が身近になっている、とも言えます。そういったエピソード1つを取っても、これくらいのことで病院にかかるなんてと思ってしまいがちな日本人の心理が透けて見えてくる感覚があります。

Shrinkというタイトルに込められた想い

作品タイトルにもあるShrinkとはアメリカでは精神科医のことを指す言葉だそうです。妄想で大きくなった患者の脳を小さくしてくれる仕事。というスラングなのだと弱井先生は教えてくれます。

アメリカと同じく日本でも、些細なことであっても精神科を気軽に訪ねることが出来るように、患者さんに優しく寄り添う場所として定着させたいという想いが込められているのではないかと想像できます。

弱くてもいい

本作に登場する登場人物は、パニック障害やうつなどそれまでの自分では考えられなかった心身の変化に、次第に心がついていけなくなる様子が赤裸々に描かれています。そんな時に必要なのは自分の状態を理解してくれ、その苦しさにちゃんと名前をつけてくれる精神科医の適切なアプローチなのではないかと感じさせられます。

人は、弱い生き物です。時にそれを認めることができず、こんな弱い自分を認めることはできないと自身を責めてしまうこともあるでしょう。そこに自分の弱さを肯定してくれる弱井先生のような存在が居てくれるとことがどれだけの救いになることでしょう。

もっと世の中に精神科がポピュラーなものであって欲しい。そんな願いが込められた本作を読むことで、その体験がいつかアナタ自身やその周囲の人を助けてくれるかもしれません。心を癒してくれる弱井先生の診察を受けるような気持ちで、気軽に本作を手に取って見ることが救いに繋がるのではないでしょうか。

作品が気づかせてくれること

作中の一幕では障害者雇用がメインテーマとして描かれています。その中で障害を持つ人を特別扱いすることがゴールではなく、必要なのはコミュニケーションと少しの配慮、そして何よりも思いやりの気持ちを持つことが大切なのだと紹介されています。当事者だけの問題ではなく、社会全体で考えるべきことなのだと教えてくれているような気がしてなりません。

1人でも多くの人に、本作品を手に取って頂けることを切に願っています。

執筆: ネゴト / もり氏

関連記事

インタビュー「漫画家のまんなか。」やまもり三香
漫画家のまんなか。vol.1 鳥飼茜
完結情報
漫画家のまんなか。vol.2 押見修造
インタビュー「編集者のまんなか。」林士平

TOP