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色んな作風目白押し!オススメ読み切り短編集5選!

読み切り短編の魅力

1話で完結する読み切り作品には1本の映画を観た時や小説を読むのと同じぐらいの没入感を味わえる魅力があり、その感覚を味わいたいが為に好んで読むことが多くあります。

また、長編作品で読んでいる漫画家が過去に手掛けた読み切りの短編集を読んで「このキャラやエピソード、短編で読んだことがある」と気付いた時、作家の歴史を辿った様な気分に浸れるのも一興です。

忙しかったり疲れている時といった長編漫画を読むのが難しい時、気軽に読めて気分転換も出来ますし短編集は先生自身により各作品の解説やあとがきがあることも多い為、より作品を深掘りして読める二度美味しいのも良いですね。

私にとって読み切り短編は「沼」と言っても過言ではないぐらい大好きなジャンルなんです。

そこで今回、様々な作家の読み切り短編集を紹介していき、皆さんにも短編沼へ踏み出していって貰いたいと思います!

今回の記事をきっかけに短編に興味を持って頂けたら幸いです。

『あと一歩、そばに来て』武田登竜門先生

あと一歩、そばに来て 著者:武田登竜門

こちらの短編集は、特に映画が好きな方にオススメしたい作品です!

表紙に描かれている少女が主人公の短編「その時がきたら」は、誘拐された即位したばかりの王女が、自身の世話役をする男と過ごす日々を描いた物語。

目隠しをされた状態で男の顔が見えない緊張感が徐々に安心感、そして恋心へと変化していく様は何ともドラマチックです。

他にも膨大な黄金を隠し持っているとされている村に辿り着いた冒険家2人が主人公の「楽園」はミステリー風味が強い洋画の様な濃厚さがありますし、

現代の日本を舞台にした感動作「大好きな妻だった」等、バラエティ豊かなラインナップで読者を飽きさせません。

絵が写実的なのも相俟って正にタイトル通り「あと一歩踏み込めば、作品の中に入って登場人物達の側に立てそう」と錯覚させられる程リアルな息遣いを見させてくれるので、読み終えた後には1日中映画を鑑賞した様な充足感に浸れます。

『心のままで』雨宮もえ先生

心のままで 著者:雨宮もえ

『心のままで』は少し不器用な高校生高校生達の柔らかで繊細な気持ちが描かれています。

表題作「心のままで」をはじめ、各短編の主人公は人と関わりたいのにどうしていいかわからない悩みを抱いています。

読んでいると学生時代の若さゆえにクラスメイトとどう関わっていいかわからずギクシャクしてしまう経験を思い出し懐かしさと切なさが込み上げて来るのですが、登場人物達が勇気を出して一歩踏み出して成長していく様子が雨宮もえ先生の優しい絵柄によって表現され、柔らかく温かい毛布に包まれた時の様な安心感を抱かせてくれます。

特に好きな作品「大丈夫だよ、白井くん」はニキビが治らず潔癖症の男子高校生・白井があるハプニングから交流を持った同級生・新倉の恋を応援することになる話なのですが、収録された短編の中で特に不器用さと生きづらさが深く描かれていてより主人公に親しみを覚えました。

爽やかな青春の日常に憧れがある身としては、その一瞬一瞬を納めたいカメラマンの様な気持ちになって1コマずつじっくりと眺めてしまう程にキャラもストーリーも魅力的です。

本作は青春ドラマが好きな方必見です!

『女子には歴史がありまして 平尾アウリ短編集』平尾アウリ先生

女子には歴史がありまして 平尾アウリ短編集 著:平尾アウリ

『推しが武道館いってくれたら死ぬ』の作者・平尾アウリ先生の短編集。

表紙の雰囲気からシリアスな作品集を想像しましたが、実際に読んでみると元気で明るい話が満載なんです!

表題作「女子には歴史がありまして」は単行本の冒頭に収録されているのですが、4ページという短さの中にも関わらずハチャメチャでスピード感溢れる物語を見せてきます。

ショートギャグ漫画「保健室の白石先生」「きらめき魔法七色カルテット」はハチャメチャで読んでいて笑って元気になれました!

更に平尾先生の魅力は何といっても可愛い女性キャラの描写!

短編集でも女の子が主人公の話が満載なので、ページをめくる度にたくさん可愛いキャラを拝めて多幸感に満ち溢れていきます。

また「内緒シェアリング」「百合漫画をつくろう」といったギャグ要素の強い百合漫画に留まらずシリアスな百合漫画「スーパーノバ」や「青、てのひら」「はぐれた春の最終電車」など男女の恋愛ストーリー漫画もあり、ギャグや百合を描かれている印象を強く持っていた私としてはとても新鮮でした。

「私のアイドル」の様にタイトル通りのアイドル漫画で『推しが武道館いってくれたら死ぬの』基になっているのが伺える作品もあったりと、平尾先生の多様な作風を遊園地のアトラクションの如く楽しめます!

『本の懐胎 黒谷知也作品集』黒谷知也先生

本の懐胎 黒谷知也作品集 著者:黒谷知也

『書店員 波山個間子』『「人生」のようなもの』等で「本」をテーマにした作品を多く手掛けている黒谷知也先生。

本に纏わる少し不思議な話が多いので読書家の心のツボを突いてきます。

特にお気に入りなのは第1話の「999匹の本」で、ある日、主人公が所有する999冊の本の本文が猫になり散り散りに部屋を去ってしまうという不思議な話です。

勿論フィクションなので実際に起こりうることはないのですが、自分の本が猫になるところを見てみたい!とワクワクしながら読み進められます。

シンプルな絵柄ゆえに一見淡々とした物語と捉えそうになりますが、それぞれ最後まで読んでいくと人間味溢れるキャラの様子を垣間見ることが出来ます。

表題作「本の懐胎」ではある一人の女性がタイトル通り「本」を懐妊し出産し、友人が見舞いに訪れその「本」を抱いた時に温もりを感じるという場面があるのですが、そこまでクールな表情だった友人の感極まる表情が描かれています。

喜怒哀楽を常に描いて見せるのではなく、見せ場の大事な部分に僅かに出すのも黒谷先生の作風の魅力です。

「草枕のこと」「コーヴェ・アンネイの図書館」は「本」に向きあう姿勢が静かな切なさを帯びて描かれていて、読書する人の姿というのはこんなに美しいのか、と感動を与えてくれます。

この短編集は小説を読んでいる気分を味わうと共に、黒谷先生の本への敬愛を表した一冊だと感じられました。

小説や詩に通じる美しさがある台詞とモノローグにも注目です。

『推しの肌が荒れた~もぐこん作品集~』もぐこん先生

推しの肌が荒れた ~もぐこん作品集~ 著者:もぐこん

本作の短編は、いずれも「少女」が主人公です。

登下校中に道ですれ違うような、どこかに居そうな少女達がうっすらとほの暗く艶めかしい秘密を隠し持っているストーリーは読み返すごとに癖になります。

「肌のマオ」「きしむ家」は秘密と切なさを掛け合わせたストーリー展開で、哀愁が漂っているのが陰影のはっきりした背景描写からも伝わってくるのが魅力的なんです。

着飾らない等身大の彼女達に落ちる影の姿にすら愛おしさを覚えます。

表題作「推しの肌が荒れた」では推していたアイドルが多忙になり肌が荒れていく姿を見続けながらも真っ直ぐな気持ちで彼女を応援する主人公・マユの熱量からくる言動に目を引かれます。この作品は好きなアイドルや俳優といった「推し」がいる人達が読んだらどう感じるか反応が気になりますね。マユの言動は賛否が読み手によって別れる内容ですが、アイドルの推しがいる私としてはマユぐらい全力で推せてないな、凄いなと尊敬の眼差しで見つめてしまいます。

「推しの肌が荒れた」のマユが巨大なキャンバスに推しの絵を描く姿がライブパフォーマンスの様に見えたり、アトピー持ちの少女が主人公の作品「あつい皮膚」では、皮膚や体の質感、痒みに堪える絵力の強さがある描写も印象的です。

癖になるストーリーに加え、視覚や触覚といった現実の身体機能へ強く訴えてくるライブ感が溢れる刺激的な面も持ち合わせた一冊です。

まだ見ぬ短編作品に出会おう

今回紹介した作品は世に出ている一部で、短編集を検索すると数え切れないぐらい存在していることがわかります。

作家や作風が異なる短編集の中で、是非自分好みの作品を見つけて読んでみて下さい。

今はウェブアプリでも短編や新人賞の読み切り漫画がたくさん公開されているので、スキマ時間にチェックしてみてはいかがでしょうか。

その短編が時を経て短編集として一冊の単行本になった時に改めて読み返すと、新たな気付きや発見があるかもしれません。

執筆: ネゴト /

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