『寿エンパイア』旨い寿司を握りたい!シノギを削る寿司職人達の熱き闘い
『バンビ~ノ!』等の作品でお馴染みのせきやてつじ先生による、寿司職人の世界を舞台に描かれた作品が『寿エンパイア』です。
母の故郷、日本で一流の寿司職人を目指す
元寿司職人の母親を持つハワイ育ちの日本人、松田湧吾・アービング。湧吾は幼い頃に最愛の母親を病気で亡くした過去を持ちます。
大好きだった母との忘れられない思い出。それは母に握ってもらった寿司の味があまりに美味しすぎて感動したことでした。母は笑顔で寿司を頬張る湧吾に「世の中には凄い寿司を握る奴が沢山いる」と焚き付けるように告げます。
子供心にその言葉で火がついた湧吾は、母親を超える寿司を握れるようになりたいと願いながら成長してゆくのでした。
『寿エンパイア』 ©せきやてつじ/小学館
そんな折、湧吾は母の古い知り合いを名乗る男、竹部と出会い、かつて母が働いていた日本の寿司屋の名店、東京華山本店で働かないかと誘いを受けます。
最初は旅行がてら日本の寿司屋を体験しに出向いた湧吾でしたが、寿司の本場で新鮮な刺激に触れ、華山で寿司職人として働くことを決意します。
そこは理不尽がまかり通る縦社会
厳しい世界であることは想像に難くない寿司職人の世界。そこで先輩社員から不当な扱いを受け続ける湧吾。睡眠時間すらまともに与えられず、来る日も来る日も雑用とゴミ捨ての日々を送ることになります。
常人であればすぐに心が折れてもおかしくない困難な状況下でも、かつての母の教えである辛い時こそ笑顔で笑い飛ばす気持ちを持ち続け、暗闇の中でも光を見失わず粘り続ける姿が作中で描かれます。
『寿エンパイア』 ©せきやてつじ/小学館
折れない心で寿司を握る
本作で特に印象的なのは、主人公である湧吾の心の強さと人間力です。どれだけ理不尽な扱いを受けようと、最高の寿司を作る為に努力を怠らない姿。そして、例え誰が相手であろうと試合の後には相手を尊重し、自分から握手を求める姿に感動を覚えます。
寿司職人とは、カウンターに立てばその人間性や歩んできた人生が滲んで見えるといいます。とりわけ人間力が色濃く映し出される職業なのだと痛感させられます。だからこそ真っ直ぐに前だけを見据える湧吾の姿は眩しく、芯の通った人間性に読者は気持ちを揺り動かされることでしょう。
『寿エンパイア』 ©せきやてつじ/小学館
エンジョイしようとする気持ちこそが全て
共に寿司職人の世界で頂点を目指す仲間達の姿も頼もしく、特殊な世界だからこそ、その場所で出会った同志達の絆の固さも作品の見どころです。
華山という巨大な江戸前寿司の一大勢力の中で巻き起こるお家騒動もあり、湧吾の出生や母親の過去など見どころが盛り沢山の『寿エンパイア』。
『寿エンパイア』 ©せきやてつじ/小学館
様々な魅力を秘めた本作ですが、ただただ極上の寿司を産み出そうとする若き職人達の全力の姿を浴び続けることがこの作品のキモであると信じています。目の前に出された極上の1品を本能のままに味わい尽くすように、本作を楽しんでいただきたいのです。
シンプルながらどこまでも奥深い。そんな寿司の魅力に誘われ、熱い気持ちに包まれる作品です。その目で、舌で、五感全てで味わってみては如何でしょうか。