『あの子の子ども』高校生カップルの妊娠。少女マンガだからこそ、あえてテーマにした10代に知ってほしい性行為のリアル
別冊フレンドで連載中の『あの子の子ども』は、「このマンガがすごい!2022」オンナ編33位、「出版社コミック担当が選んだおすすめコミック2022」8位にランクインするなど、注目度急上昇中の少女マンガです。
性教育という切り口で性教育YouTuberシオリーヌさんと作者の蒼井まもる先生が対談されるなど、日本の性教育の現状を訴える作品としても注目されています。
突然の思いがけない妊娠。その時、あなたならどうしますか?
主人公の福(さち)は、同い年で幼馴染の宝(たから)との関係は15歳の夏から。2人にとって性行為は日常的な一コマ。好きが募っていく過程もなければ、恋の駆け引きもない。ある意味少女マンガらしくないシチュエーションから物語は始まります。
『あの子の子ども』 ©蒼井まもる/講談社
ある日、なんとなく自分の体に異変を感じた福は、いつかの性行為で避妊に失敗したことを思い出します。恐る恐る妊娠の初期症状を調べる福は、わざわざ家から遠いファミレスまで行って妊娠検査薬を使います。
「陽性」反応に戸惑う福。
『あの子の子ども』 ©蒼井まもる/講談社
ここまでだったらよくあるストーリーかもしれません。ですが、『あの子の子ども』が注目されている理由の一つに、妊娠を包み隠さずリアルに描いていることが関係していると思うのです。
作品では、妊娠発覚後の2人の不安定な心の描写、高校生の2人を取り巻く大人たちの対応や思いが、こと細かく描かれています。
『あの子の子ども』 ©蒼井まもる/講談社
『あの子の子ども』 ©蒼井まもる/講談社
男性の影は宝と福の兄である幸くん以外見当たらないというのも、とてもリアルに思えます。現実世界でも妊娠において当事者以外の男性の出る幕はないといってしまっては語弊がありそうですが、妊娠・出産はどこまでいっても女性の問題であることは確かなのです。
自分が福だったら、自分が福の母親だったら、自分が宝の母親だったら、なんて声をかけるだろうか。どの道を選んでも辛い選択になりそうで、抱えきれない事実をどう受け止めるだろうか…答えのない問題を突きつけられる居心地の悪さにモヤモヤを感じずにはいられません。
大人たちの関わり方が変わってきている
福のお母さんは厳しいことも言いますが、絶対的な親の権力を持ち出して大人の思い通りに子どもをコントロールしようとはしません。
『あの子の子ども』 ©蒼井まもる/講談社
子どもたちの決断に伴う親としての責任の重さを感じながらも、ぐっと言葉を押し殺して未熟な2人の声を聞こうとします。
大人の意見を押しつけることなく、福と宝を1人の人間として認め、対等に話を進めていく様子に、親子間のパワーバランスの差が少なくなってきている”今らしさ”を感じます。
『あの子の子ども』 ©蒼井まもる/講談社
性教育は自分と相手を思いやるコミュニケーションの基本
第2巻の巻末に助産師で性教育YouTuberとして活動されているシオリーヌさんと作者の蒼井まもる先生とのスペシャル対談が掲載されています。
性についての知識は勝手に身につくものではありません。間違った情報を鵜呑みにしてしまい、失敗し、人には言えない大きな傷を負ってしまいます。知っている知っていないの知識の差が、相手を傷つけてしまうこともあるでしょう。
『あの子の子ども』では、高校生の妊娠というテーマから、大きな責任を伴う性行為というコミュニケーションを正しく理解すること。「自分が主導権を持って自分の身体のことは自分で決めていいんだよ」という、メッセージが見え隠れします。
パートナーと性について話すことは、決して恥ずかしいことではないし、自分と相手を大切にするためには必要なことだということが、若い世代のカップルに広まってほしいと思います。
執筆:ネゴト / そふえ