すべてが「ちょうどいい塩梅」のネオ下町コメディ『地元のもみぢ』
喫茶に銭湯、大衆酒場。近年レトロカルチャーの再燃がすさまじい勢いを見せ、懐かしさを感じさせるモノや場所が、若い世代の手により現代にぴったりはまる「ネオ◯◯」として次々と蘇っている。
架空の下町を舞台にした葉野宗介先生のマンガ『地元のもみぢ』も、そんな「ネオ」を思わせる作品だ。商店街の住人同士自然にふれあいが発生する昭和的コミュニティのなかで、小学生タッグが現代の空気をまとって駆けまわる! そこで起こる化学反応が心地よく笑える、本作の絶妙なバランス感覚をお伝えできればと思う。
あらすじ:小学生が商店街を引っかき回すご近所コメディ
都会でも田舎でもない「四茂木町(よもぎちょう)」の商店街に住む小学生もみぢ(6)と順一(6)は、毎日一緒に遊んでいる。
『地元のもみぢ』 ©葉野宗介/小学館
自由奔放に動き回り悪気なく毒舌を放つもみぢと、常に周囲を見てぴしりとツッコみフォローする順一。のほほんとした商店街のどこかでくりひろげられるハイテンポでシャープなふたりの掛け合いがなんとも小気味いい。
『地元のもみぢ』 ©葉野宗介/小学館
もみぢを中心に珍事件が起こったり町の謎を解き明かしたりするなかで、商店街の人びとのふれあいや思いやりが感動的にならないレベルで垣間見える、軽い読み心地のご近所コメディだ。
なかなか出会えないちょうどよさ
ノスタルジックな商店街にも、転売ヤーや迷惑行為で注目を集める動画配信者といった現代の闇を背負う人びとが存在する。彼らはもみぢや順一と関わることで結果的に懲らしめられる格好に。
『地元のもみぢ』 ©葉野宗介/小学館
しかし当のもみぢは別にそんなことどうだっていいのだ。彼女はただ、自分の都合で生きているだけだから……。こうして時代を「斬らずに斬る」からこそ、風刺が効いていても後味には笑いが残る。
『地元のもみぢ』 ©葉野宗介/小学館
小憎たらしいもみぢの顔!
感動に持っていきすぎず、教訓じみてもいない。かと言ってひたすらギャグの連発でもないドライな空気。本作の「今ちょうどいい感じ」はちょっとなかなか出会えない気がする。
この「ちょうどよさ」は絵にも言える。人物はデフォルメの強い一見懐かしいタッチながら、ディテールが工夫されているためか古さを感じない。町の風景や身体の動きも見やすく写実も描けるのが伝わってくる。ああ、この人は絵がすごくうまいんだ。
『地元のもみぢ』 ©葉野宗介/小学館
私は銭湯「つるの湯」の娘あけびちゃんがお気に入り。ラフな中に漂う色気がいいですね。
いい塩梅だから「ネオ」として輝く
下町を舞台にした物語は、人の絆! 義理と人情! みたいな熱のあるテイストになることが多かった。まさに“あの頃”を扱う映画やドラマが何度も描いてきたもので、それはそれで様式美があるのだけれども、今の気分で受け取っても現実味がなくトゥーマッチな感じもする。
だから私は『地元のもみぢ』を「ネオ下町コメディ」と呼びたい。“あの頃”と今のムードのまざり具合に、笑いと感動となるほどの配合、すべての塩梅がよくてさらりと読める下町の物語。
『地元のもみぢ』 ©葉野宗介/小学館
もみぢと順一は今日も四茂木商店街をゆく! 皆さんもぜひちょうどよくなってみてください。