『ニューノーマル』ひとつの感染症が生み出した物語。これからの思春期の話をしよう
2020年夏、Twitterで『君と僕のくち』というタイトルのショートマンガが公開され、瞬く間に話題となりました。
僕たちが生まれる少し前
ひとつの感染症が世界を変えた
相原 瑛人『ニューノーマル』1巻 /第1話より
とある感染症のパンデミックの影響で、口元をマスクで隠すことが当たり前の日常となった世界。素顔を知らないクラスメイトの"くち"を見てしまった男女の秘密の物語です。
感染症が変えた思春期の形
本作は、公衆の面前では口元をマスクで覆うことが衣装のように“文化”となった世界。そんな時代に生まれ育った子供たちは、クラスメイトであろうと友人であろうと、相手の顔を一生知らないで過ごすことが当たり前となっていました。
相原 瑛人『ニューノーマル』1巻 /第1話より
そんな時代を生きている子供たちにとって、隠された素顔はまさに秘密の花園。感染対策の目的とは裏腹に、口元は意図せず若者にとって興味の対象となっていきます。
主人公の少年である秦(はた)は、ある日偶然クラスメイトの少女夏木(なつき)がマスクを外して水を飲んでいる姿を目撃してしまいます。
相原 瑛人『ニューノーマル』1巻 /第1話より
本来であれば絶対に見ることのない、柔らかそうな唇に心奪われる秦。当然怒っていると思っていたところ、後日秦は夏木から呼び出されます。
「私のくちどうだった?」
「他の人の顔…見たコトないからわからないけど......僕はっすごく…っき…っ綺麗だと思った…っ」
もう一度くちを見たければ秦くんのくちを見せてと夏木。迫られた秦は、ゆっくりとマスクを外します。その素顔を見た夏木もすっかり動揺。以降ふたりは、お互いのくちを見せ合う背徳感あふれる関係へと進展していきます。
既視感のある設定が読者を惹きつける
今の世の中の延長線上のような設定に、他人事とは思えない妙な緊張感を覚えます。感染症の影響で口元が隠される近未来、時代を捉えた今の私たちだからこそ、共感でき心に刺さる作品ではないでしょうか。
たしかに、最近出会った人の中にはマスクの下の素顔を見たことがない人もいます。目元だけで顔を想像していますが、実際の口元はどうなってるんだろう…。あれ、すでに同様の世界が訪れているようにさえ感じてしまいます。
今の日本では、マスクを着用せずに歩いている人はほとんどいません。感染対策をしっかり順守している証として、これは褒められるべきことでしょう。ただ同時に、通りすがりの人の顔を認知できない社会が生まれました。そんな世の中が行き着く未来を、思春期の男女を絡めたラブコメとして昇華させた相原先生の着眼点は、さすがの一言です。
男女の物語だけではない綿密なマンガの設定
物語は1巻の後半から徐々に動き始めます。マスクなしの生活をしている男の登場や、東京が壁に囲まれて封鎖されていることがわかってきました。
相原 瑛人『ニューノーマル』1巻 /第6話より
さらに2巻では、ウイルスに感染し秦が隔離されてしまったり、感染症が蔓延し始めた頃の状況が徐々に明かされるなどシリアスな展開が続きます。壁の向こう側の姿やウイルスの正体など、まだまだ解明されない謎は盛りだくさん。これからの展開にも期待が膨らみます。
とはいえ、物語はまだ序章。まずは、くちを見せ合う男女の恋愛模様を存分にお楽しみください。そしてぜひ“マスクを取る”ことがセクシャルに感じる、新しい思春期のドキドキを堪能してください。