普通という呪縛を緩やかにほぐしてくれる『三日月とネコ』は心のサプリメント!
多様化が進む現代において、生活や恋愛のスタイルも型にはめるのはナンセンスになってきています。とは言っても、なかなか抜け出せない自分がいたりしませんか?
2021年末に完結を迎えた『三日月とネコ』は恋人でも家族でもない、猫好き男女3人暮らしを描いた作品です。人との繋がり方や自分の生き方と向き合っていく様子を、温かくも静かに力強く描いています。
熊本地震をきっかけに始まる3人暮らし
44歳独身で書店員の灯(あかり)、34歳精神科医でレズビアンの鹿乃子(かのこ)、29歳インテリアショップ販売員でパンセクシャルの仁(じん)は猫3匹と一緒に同居中。元々は顔も名前も知らない同じマンションの入居者でしたが、2016年の熊本地震の際に声を掛け合い一緒に過ごしたことがきっかけで始まりました。
それから3年、ムカつくことはあっても(灯さん談)お互いに気持ちを伝えあい、居心地の良い生活を送っています。
ウオズミアミ『三日月とネコ』第1話より
赤の他人から知人に、そこから友人や恋人ではなく同居人となった3人は"普通"ではないと思いますか? いまが楽しいだけの将来性のない生活だ、と思うでしょうか。
熊本でごく普通の人生を歩んできた灯にとって、この生活はこれまでの人生で一番"普通ではない生活"であると思いつつも、これまでにない幸福感も感じています。
そこには、世間から向けられる「40代、独身、女性」への”普通”が、灯のHPを少しずつ削っていたことを思い知らされます。
普通ってなに? 普通ができない私たちは欠陥なのか。
第1話で灯は結婚したり子ども産んだりしてないから、誰かの奥さんや誰かのお母さんを経てない自分は、歳だけはとるのにずっと世間からズレてるのではと感じます。そして2人にこう言います。
「何か欠けたまんま ずっとオトナになりきれなくて」
ウオズミアミ『三日月とネコ』第1話より
女だから、その年齢なんだから、など世間の"普通"を押し付ける言葉はあふれていて、実は自分が一番気にしているという経験は多くの人があるのではないでしょうか。その”普通”に当てはまらない自分は何か欠けているのかもしれない、そんなモヤモヤとした心の雲が晴れていくような名言が多いのもこの作品の魅力です。
例えば、上記の灯の台詞に対して鹿乃子はこう応えます。
「欠けてるんじゃないよ、満ちる途中でしょう? 人生なんてさいごまでずっと」
ウオズミアミ『三日月とネコ』第1話より
本作に散りばめられている優しい台詞の数々は、アナタの中にある”普通”という呪縛を少しだけほどいてくれるはずです。
可愛い猫と美味しそうな料理でさらに癒される
本作は2019年にanan猫マンガ大賞も受賞しているように、猫マンガとしての側面もあります。3人と一緒に暮らす3匹の猫たちは物語にとても大事な存在であり、猫ならではの可愛らしさには思わずニヤけてしまうはず!
そして、私が注目してほしいのは食のシーン。グルメマンガというほどの描かれ方はしていませんが、食事をするシーンはいつも幸福感が溢れています。手作りの餃子を頬張ったり、ファストフードを買って食べながら映画を観たり、夜にホットミルク飲んだり…心を満たす瞬間に食というのは大事な要素であることを改めて感じました。
本作は言葉と猫と食のトリプルで私たちの心を癒してくれる最高のサプリメントになるはず! 全4巻という手に取りやすい巻数なのでぜひ読んでみてください。