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『プラタナスの実』小児医療の現実と向き合う、救済と再生の人間ドラマ

『テセウスの船』の作者として知られる東元俊哉先生による、小児医療をテーマにした最新作『プラタナスの実』。小児医療を取り巻く様々な問題を抱えながらも医療と向き合う1人の青年医師とその家族の物語です。

母の遺志を継ぐ医師

理化学研究所所属のアルバイト青年医師、鈴懸真心(すずかけまこ)。本業は医師でありながらYouTuberとしても活動をしている真心でしたが、再生回数と動画の評価は劇的に低いことはご愛嬌です。

両親が共に医師だった真心。過去に小児医療に関わるある出来事がきっかけで両親は離婚することになり、父親と別れ母親の元に引き取られた真心でしたが、その後程なくして母を亡くしてしまうという辛い過去を持ちます。

医療の現場で関わる子供達への愛情が溢れていた母のように、患者である子供達へ愛を持って接する真心でしたが、その中で小児医療を取り巻く様々な問題に直面します。

ネットの知識を鵜呑みにして、目の前の医師の言葉よりも自分の得た知識を信じ振りかざす母親。上手く言葉を伝えることができない子供を診るというハードさ。来る日も来る日も、小児医療の難しさに直面する日々でした。

そんな葛藤を抱えながらも自分なりの向き合い方を模索する真心の元に、絶縁していた父親から、突然手紙が届きます。

自分の知らない父の姿

かつて大病院の病院長として、採算の取れなくなっていた小児科の閉鎖を断行した過去を持つ、同じ病院で働いていた母親の制止も振り切り非情な判断を行った父、鈴懸吾郎(すずかけごろう)。その父が北海道で小児科を開業した、と手紙には書かれていました。

かつて小児医療を全否定した父が、何故今更小児科を開業することを決めたのか。疑問と雑念が混じる中、真心は父の開設した病院で働く決断を下します。

家族の形

真心からすれば、何故父親がこのような行動を取ったのか、腑に落ちません。決して父親のことを許した訳でも無く、納得している訳でもない。それでも、目の前で苦しんでいる小児患者達を全力で救おうとしている今の吾郎の姿に、真心は感情を揺り動かされます。

それでもやる理由

真心には、父親側に引き取られた鈴懸英樹(すずかけひでき)という兄がいます。英樹も両親と同じく医師の道を選び、今はインドで小児外科医として活躍しています。その英樹にも、父親である吾郎は一緒に自分が作った小児科で働かないかと連絡をしていました。

1度バラバラになってしまった家族が、小児医療という共通点を灯に1つの病院へと集まってくる様に、家族がもう1度距離を縮めていくような展開が描かれるのではないか、とそんな期待をしてしまいます。ただ考え方も価値観もバラバラなように見受けられる3人がそう易々とすぐに打ち解ける、ということは難しそうです。

小児医療は、未来を守る仕事

小児科をやろうと思ったきっかけを、吾郎は子供達の未来の手助けをしたいから、と言い切りました。それはかつての吾郎を知る真心からすれば偽善に聞こえたかも知れません。それでも、例え真意がどうあれ、未来を担う子供達の命を繋いでいくこと、健康を守ることは未来を守ること、そして未来を創ることと同義であるとも感じています。

もう取り戻せないものがあることを痛いほどに感じているからこそ、今目の前にある命を救いたいと願うのはある意味自然なことなのかも知れません。

命とは。生きるとは。心を擦り減らす要素に溢れた小児医療という現実の中で、奇跡のような瞬間を鮮やかに切り取ってくれる『プラタナスの実』。

病院を訪れる全ての家族に寄り添おうと、誠実に患者と心を通わそうとする真心達小児科医の姿を、その目に焼き付けていただきたい作品です。

プラタナスの実 著者:東元俊哉

執筆:ネゴト / もり氏

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