『僕らが恋をしたのは』平均年齢70歳の男達の楽園に現れた謎の美女
『リストランテ・パラディーゾ』『BADON』などの作品で知られるオノ・ナツメ先生による最新作が『僕らが恋をしたのは』です。平均年齢70歳の男性4人組と1人の女性が巻き起こす人生最後かも知れない恋と呼べるものかどうかもまだ定義づけることが難しい不思議な物語です。
男4人の気ままな楽園生活
冒頭で登場するのは、山奥の田舎に住む70歳前後の4人の男達です。一帯の土地の持ち主である大将と、元会社の同僚で大将とは腐れ縁のプレイボーイのキザ。1年前に移り住んできた物静かな教授。自由気ままな渡り鳥のような生活を楽しむドク。
人生経験豊かな4人の、誰にも邪魔されることのない穏やかで満たされた隠居生活がそこにはありました。そこはまさに男の楽園と呼ぶに相応しい場所でした。
オノ・ナツメ『僕らが恋をしたのは』1巻 / 第1話
穏やかな空間に突如現れた美女
そんな4人の元に突如現れたのが、ひとり旅をしているという60代の元女優の美女でした。何年も前に貼り出していた賃貸物件の張り紙を見て電話をするでもなく突然現地を尋ねたという彼女。そこはかなり不便な場所であるにも関わらず、特に逡巡することもなくここに住みたいと答えた彼女の真意は誰にも分かりませんでした。
男4人の気楽な共同生活が醸し出す空気感が、一瞬にして様変わりする様がやけにリアルです。
オノ・ナツメ『僕らが恋をしたのは』1巻 / 第1話
楽園は徐々に形を変える?
お互いをあだ名で呼び合う4人に合わせ、自分もあだ名をつけて欲しいとねだる彼女につけられたあだ名は「お嬢」でした。
70歳前後の男4人と60代のお嬢との不思議な共同生活が静かに幕を開けます。
オノ・ナツメ『僕らが恋をしたのは』1巻 / 第1話
これでもかと浴びせられるお嬢の魅力
突如男の園に足を踏み入れたお嬢の魅力がとにかく本作では炸裂しています。キャラクターも趣味嗜好も全く異なる4人の男達が、それぞれ少なからずお嬢に惹かれている様子が作中からは確かに感じ取れます。
当のお嬢自身が意識的にか無意識なのかもその様子から窺い知ることは容易ではありません。そこは流石、元女優といったところでしょうか。
4人それぞれと会話を交わす中で自然と醸し出されていくお嬢の魅力。果たしてお嬢には何かしらの目的があるのか。気がつけば彼女のことで頭が一杯になってしまっているのは、読者も本作に登場する男性陣もどうやら変わらないようです。
オノ・ナツメ『僕らが恋をしたのは』1巻 / 第3話
日々を楽しむ
本作から滲み出る、もう決して長くないであろう人生の限られた時間を心から楽しんでいる4人の姿にはある種の憧れを感じます。過去にあった辛い経験を乗り越えた今、自由にやりたいことをやるのだという想いを実現に移すことができている4人の生き方を素直に羨ましいな、とも感じるのです。
70代になった自分を想像してみて
もし自分が70代になった時に、こんな風に気心知れた仲間と日々を暮らせたら本当に楽しいだろうなと想像させてくれる、そんな世界が広がっています。そして穏やかな日常にふと現れたお嬢という魅惑の存在によって、ざわざわした気持ちにもさせられる本作。その感情は過去に自分が恋と呼んでいたものなのか、その正体はまだまだ闇の中です。
様々な想いに駆られながら夢中に読み進めたくなる『僕らが恋をしたのは』。オノ・ナツメ先生が醸し出すその美しい作品世界に、ぜひ触れてみて下さい。
その時、僕らは最後かも知れない恋をした