『北極百貨店のコンシェルジュさん』動物のお客様へのホスピタリティ溢れる作品
文化庁メディア芸術祭にて第25回 マンガ部門 優秀賞を受賞した西村ツチカ先生の作品『北極百貨店のコンシェルジュさん』。
タイトルの「北極百貨店」に訪れるのは全員動物のお客様で、人間の主人公・秋乃が新米コンシェルジュとしてお客様のサポートをしようと奮闘する様子を描きます。
西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』1巻/第1話
社会人として揉まれ時には失敗する秋乃ですが、先輩コンシェルジュの森と岩瀬、厳しいフロアマネージャー・東堂、そして謎のペンギン・エルルのお客に見守られていつも最後は笑顔になれる1話完結型のマンガです。
現在の人間にも通じるホスピタリティ
舞台が百貨店ということもあり、様々な理由で動物のお客が訪れます。
広告代理店に勤めるフェレットが、取引先の社長であり百貨店でVIA(ベリーインポータントアニマル)に認定されている絶滅種・ワライフクロウにどんな接待をすれば喜んでもらえるかと悩んでいるところを協力して解決したり、
西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』1巻/第1話
レストランのメンバーと一丸となってニホンオオカミのカップルのプロポーズ大作戦に固唾を呑んで見守ったりと微笑ましいエピソードもある中、ワガママなクレーマー気質のカリブモンクアザラシに振り回されたり、ガラス造形作家のケナガマンモスの作品展示会で起きたアクシデントに対処することになる苦い一面も。
完全なファンタジーに留まらず、現実の百貨店で起こりえる空気を描くことで「ホスピタリティ」について学ぶことが出来てお仕事マンガとしての一面も見出せます。
緻密なペン画と芸術のオマージュ
動物の毛並み、建物や小物の影のグラデーションをスクリーントーンだけではなく掛編みの技法で中間色を表現しており、そのほとんどがペンで緻密に描かれていて、ペン画好きな方にとってたまらない描写が満載です!
また、昔子供の頃に愛読していたムーミンの絵本を彷彿とさせられ懐かしい気分にもなります。
西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』1巻/第1話
カラーページにはイギリスのデザイナーであるウィリアム・モリスを始めとした海外の作品をオマージュしたイラストが掲載されていて見る人を飽きさせません。
まるで百貨店で買った商品の美しい包み紙を見た時の高揚感をも追体験させてくれるようです。
動物と人間の存在を再認識する
人間の様に二足歩行し、洋服を着て買い物をする動物を人間がもてなすという行為は奇妙な光景に見えるかもしれません。
しかし最終巻で明らかにされる「北極百貨店」の存在意義を知ると、地上に存在してきた全ての動物たちへの敬愛を込めた眼差しで作品を読み返すことが出来るのです。
そして同時に我々「人間」という存在を見つめ直すきっかけを投げ掛けてくれる様な視線を作品から感じます。
西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』1巻/第2話
ネット通販で買い物をする機会が増えた昨今、本作を読んで買い物をする時のワクワクする気分を味わって見て下さい!
西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』2巻/第7話