『まにまに道草』子育てを終えた女性の心情を丁寧に描いたヒューマンドラマ
大町テラス『まにまに道草』プレスリリースより
『まにまに道草』は、なかなか子離れできない心配性の主人公が娘のひとり立ちをきっかけに新しい自分を見つけていく物語。サウナを題材にした『お熱いのがお好き?』の大町テラス先生の作品です。
母であり、妻であり、ひとりの女性である主人公の日常を描いた本作。(いい意味で)ありふれた毎日のなかで移り変わってゆく彼女の心情が丁寧に描かれています。
フィクションというにはあまりにもリアルな物語。そんな『まにまに道草』の魅力をお伝えします。
あらすじ
©大町テラス/講談社
一人娘をもつハルコはなかなか子離れできない心配性。一心同体のように感じていた娘がひとり暮らしをはじめたことで、ぽっかりと穴が空いたような日々に落ち着きません。
そんなソワソワする毎日にあらがう事なく身をゆだねていくうちにゆっくりとハルコの心は満たされてゆきます。
ワクワクに誘われて
新しい生活に戸惑うハルコですが、タイトルのとおり道草をするように成り行きにまかせることで彼女の心はだんだんと変化してゆきます。
たとえば、同僚にすすめられたドラマで徹夜したあとの幸福な倦怠感。しょんぼりした日でも美味しい豚カツに舌鼓をうてばハッピーになる意外と単純な自分。そんなちょっとしたワクワクを重ねることで、母と妻と大人なハルコのバランスが整っていくように感じます。
そして、それらは何気ないことばかりで、特別な出来事じゃないからこそ読み進めるごとに共感と親近感がとまりません。ハルコの道草が日常を彩りはじめると、こちらまでうれしい気持ちになってきます。
©大町テラス/講談社
物語を支えるのは生きた言葉たち
大町テラス先生の前作『お熱いのがお好き?』でも感じられた物語のリアリティは本作でも健在です。
とくにセリフとモノローグのそれは絶品です。
©大町テラス/講談社
ひとりごとや夫婦のなにげない会話、娘を心配する親心など。そこには登場人物の性格と生活がにじみ出ています。
これは、離れて暮らす娘が風邪をひいたと知ったときのハルコのモノローグです。
こんなこと意味ないのかもしれない でもこれは私にとっての小さな祈りなのだ…
引用元:『まにまに道草』第7話より
段ボールに栄養のあるものを見繕って送ろうとする描写でのひとこと。母が娘を思う気持ちが短い言葉にギュッと詰め込まれています。
そのリアルは、本作がただのフィクションではなくわたしたちの物語だと読み手に感じさせるほどの説得力があります。そして、いつもの平凡な日々が誇らしくなってくるから不思議です。
まにまに道草をするように
これまでと地続きの日常と新たな出会いの両方に目を向けることで、自身を無理なくアップデートしていくハルコが印象的です。
いくつになってもワクワクは心の栄養。彼女のように、生活の端々に心躍るなにかを見つけられたなら毎日がきらめき出すかもしれません。
また、大町先生の優しくも凛としたタッチで描かれる日常風景がとても美しいのでそちらもぜひ注目を。
まるでエッセイを読んでいるような感覚をあなたもぜひ味わってみてください。