『少女花図鑑』SFと青春が融合した切なくも美しい世界観に魅了される群像劇
もしも、人間の頭から花が生えてきたら世界はどう変わるのでしょうか。
女性の頭から花が咲いた世界で生きる高校生たちの青春を描いた雪狸先生による『少女花図鑑』。
本作は、宇宙花(うちゅうばな)と呼ばれる謎の地球外物質が根付いた世界で暮らす高校生たちの迷いと葛藤を描いたSF群像劇。
SF要素と高校生たちの青春が融合した切なくも美しい世界観に魅了されます。
女性の頭にだけ咲く花─宇宙花が根付いた世界で生きる高校生たちの群像劇
遡ること約80年前、地球に地球外物質が付着した隕石が降り注ぎます。隕石との因果関係は明らかにされてはいないものの、それ以降人類の体にある変化が起こり始めます。
それは女性の頭にだけ咲く花──宇宙花(うちゅうばな)の存在です。宇宙花は、一般的な花とは違い、女性の頭にだけ花を咲かせます。解明されていないことも多く、いまだ得体の知れない未知の存在です。
やがて世界中の女性が頭にさまざまな種類の花を咲かせるようになり、宇宙花は女性の象徴と呼ばれるようになっていきます。物語はそんな世界で暮らす2人の女子高生の話から始まります。
本作最初の主人公足立明(あだちあきら)は、表情が乏しく大人しい性格の女子高生。宇宙花は菊の花です。他人の心情や意図を読み取ることが苦手で、人付き合いも得意ではありません。人形のように表情がないという理由から、菊人形というあだ名で呼ばれています。
菊人形とは、頭、手足以外の胴体部分を菊の花や葉で飾り付けた人形のことです。
そんな明にしきりに話かける同じクラスの女子渡わこ(わたりわこ)。わこはスミレのような宇宙花を咲かせています。スミレの花言葉「誠実」や「愛」を体現したかのような学校の人気者です。
一見接点のない2人ですが、実は明はわこのある秘密を知る唯一の人物。わこの秘密をきっかけに2人は仲を深めていきます。
わこと関わることで明の中に芽生えた感情──それはわこのことをもっと知りたい、友達になりたいという気持ちでした。
しかし、歩み寄ろうとする明と反対にわこは明を遠ざけるような態度や言動を取り始めます。
『少女花図鑑』©雪狸/祥伝社 上巻P24より
なぜわこは明を遠ざけるのか、この言葉の本当の意味とは。
本作では、未知の物体、宇宙花が根付いた世界で生きる高校生たちが綴る等身大の物語。SF×青春という切なくも美しい世界観にぐっと惹き込まれます。
雪狸先生『少女花図鑑』上巻書影より
SFベースの非日常感と共感できる等身大の悩みに惹き込まれる
本作の魅力は、なんといってもこの切なくも美しい世界観。SFベースの深い設定とその中で描かれる高校生たちのコンプレックス。この2つの融合が読者を作品世界に惹き込んでいきます。
コンプレックスは本作のもう1つのテーマ。登場する高校生たちもそれぞれに悩みを抱えています。
宇宙花と自分は釣り合っていないことをコンプレックスに思う女子須藤すみ子(すどうすみこ)や宇宙花が原因でうまく恋愛ができない男子古賀幸介(こがこうすけ)など、それぞれのコンプレックスをテーマに物語は進みます。
一見、宇宙花にまつわる特別な悩みに思えますが、共感できる部分も多く、高校生たちの等身大の言葉に心が揺さぶられます。
また悩みの中心のほとんどに宇宙花が存在しており、彼らの悩みを通して人間にとって宇宙花はどういう存在なのかがみえてきます。
コンプレックスを抱えた高校生たちがどのようにして前へ進んでいくのか、それぞれが導き出した答えにもぜひ注目していただきたいです。
下巻の巻末には描きおろしエピソードを収録!気になる高校生たちのその後
『少女花図鑑』下巻の巻末には、なんと10ページにわたる描きおろしエピソードを収録!高校を卒業した明やわこたちのその後のお話が描かれています。
本編ではあまり見ることのできなかったキャラクター達の絡みやのほほんとしたエピソードが楽しめますよ。
また雪狸先生PIXIV FANBOXでは、本作のネームやあとがきなどが掲載されています。下巻で収録された描きおろしエピソードの続きも読めますよ!