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『辺獄のシュヴェスタ』激動の時代の復讐譚!知恵と信念を武器に、少女は理不尽を切り開く

運命や現実ってものがどれだけ残酷でも、それと戦わなくちゃいけない。死んだ顔で生きたくないなら…。

「試合に負けた」「仕事で失敗した」「恋人にフラれた」

前触れなく降りかかるさまざまな理不尽、こちらの都合などお構いなしに現れるたくさんの壁たち。

そういったものに出くわした時、下を向いてしまいたくなることもあるでしょう。見えないフリをしたくなることもあるでしょう。しかしあなた自身もわかっているはず。前を向いて戦わなければ、何も変わらない、何も進まない。

竹良実先生の『辺獄のシュヴェスタ』は、襲いかかる現実を真正面から見つめて、自分が持つ全てを使って斬り開いていくマンガです。

辺獄のシュヴェスタ 著者:竹良実

目をそらしたくなるほどの不都合な偶然、目を覆いたくなるほどの惨憺たる結果、それらを直視する心の強さを持つにはどうしたらいいのか?

それらを教えてくれる作品です。

魔女狩りによって大切な人を奪われる

1500年代なかばの神聖ローマ帝国。宗教改革とそれにともなう戦争、そして魔女狩り。時代の激流が人々を飲み込むさなか、小さな村で物語は始まります。

主人公は聡明で勝ち気な少女エラ。村で薬草づくりなどを生業にしていたアンゲーリカのもとで育ちました。2人の間に血のつながりは無かったものの、アンゲーリカが豊富な知識と優しい心で人を助ける姿に触れ、2人は本当の親子のような強いきずなで結ばれていきました。

しかし、魔女狩りの濁流はアンゲーリカにも襲いかかります。告発、異端審問、裁判。またたく間に罪人に仕立てられる育ての親を、エラは見ていることしかできませんでした。

そしてエラは、親を殺した修道院の院長への復讐を強く誓うのです。

「いじめ」「洗脳」「告発」復讐への道に立ちはだかる壁

「魔女の子」とされたエラを待っていたのは、親の仇が院長を勤める修道院での生活。そこには同じ境遇の女子が集められ、宗教的に正しい人間になるよう再教育されていました。

その状況を観察し、エラは考えます。

「敵のふところに入れば復讐のチャンスがある」

チャンスは修道院内で信用を勝ち取り、院長と直接面会できた瞬間。こうして数年をかけた復讐計画が始まりました。

ですが修道院での生活は苛烈を極めます。日常的に強制される労働、上級生や同級生からのいじめ、修道院の教えを信じさせる洗脳などなど。目的へ向かうエラの前に、えげつないほど多種多様な壁が立ち塞がるのです。

「知恵」と「信念」を武器に現実と戦う

しかしエラは一瞬たりとも目をそらしません。新しい壁が現れるたびに、状況を細部まで観察し、現状で打てる手を考え、試行錯誤、創意工夫で乗り越えようとします。

「なぜそれが起こっているのか?」

「それによってどうなるのか?」

「相手の狙いは何か?」

「解決方法は何があるのか?」

今風に言えばロジカルシンキングやクリティカルシンキングと呼ばれるような、徹底した現実直視の思考能力がエラの武器。どんな苦境に立たされても、常にできることを考え続けます。

「諦める」という文字を忘れたかのような姿にきっと心震えるでしょう。

そんな現実的な「知恵」を武器とするエラですが、忘れてはならないもう1つの武器が「信念」です。一見矛盾しそうな要素ですが、この2つが両立していることこそがエラの最大の強みでしょう。

作中でエラは、損得で考えたら絶対にしない方がいい行動を何回もします。その瞬間こそがこの作品がいっそう面白くなるシーンであり、エラがなぜ現実と戦うことができるのかわかるシーン。

頭のいいエラが合理的でない選択をしたということは、その選択には本人の信念が反映されているということ。曲げることのできない信念があり、それに基づいて決断したということ。そして、そんな信念があるからこそ、エラは過酷な環境で自分の目的を見失わずにいられるのです。

信念がなければ進む方向がわからなくなる、知恵がなければ進めなくなる。知恵と信念、共存しがたいこれらを両手に掴んだ瞬間、破るべき壁とそれを破る方法がわかるのです。

生きていると色々なことが突然起きるものかと思います。手で顔を覆って天を仰ぎたくなることもあるかもしれません。パソコンを閉じてスマホでSNSをしたくなることもあるかもしれません。

そんな時、前を向いて目を開ける勇気が欲しくなったなら、この作品を手にとってみてください。

執筆: ネゴト / アキヒト

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