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『東京ヒゴロ』松本大洋先生が描くマンガ家とマンガ編集者の物語

松本大洋先生が初めて語る、マンガ家が描くマンガの世界。そして語られる、創作への思考の跡。『東京ヒゴロ』をご紹介します。

東京ヒゴロ 著者:松本大洋

マンガ家が描くマンガの世界『東京ヒゴロ』

『鉄コン筋クリート』『ピンポン』『Sunny』――未来、スポーツ、自伝…あらゆる題材を駆使して、少年たちを描き続けてきた松本大洋先生の最新作は、理想のマンガ本を作ろうと大手出版社を早期退職した50代のマンガ編集者を主人公とした物語です。

30年間務めた出版社を辞めた理由は「自分が立ち上げた雑誌が廃刊になったため」

編集者として読者の乖離を認識できなかったことに責任を感じ、また、業界に絶望し、ある意味「あと先考えずに辞めてしまった」塩澤。

マンガとの決別を心に決め、「マンガとは無縁の生活をするんだ」と、周囲にも自分にも言い聞かせマンガと距離を取ることにしました。そう決めたはずなのに、自分が初めて担当したマンガ家の死をきっかけに、内に秘めていた理想がむくむくと頭をもたげてきます。

何かに突き動かされるように、今度は「もう一度マンガを作りたい」と、またも唐突にマンガ制作を決めた塩澤は、どんなマンガ本を作っていくのでしょうか。

等身大のマンガ家とマンガ編集者の苦悩

漫画界に嫌気がさしたのです。 実際、私は絶望してしまったのです。 利潤のみを追求することに、なんら疑問を持たない編集者たちにも・・・ 誇張された演出にばかりはしゃぐ読者にもね・・・ まあ・・・私が少しセンシチブ過ぎるのでしょうが・・・

引用元:『東京ヒゴロ』第6話 嵐山森先生を訪問す。

松本大洋先生の作品は読者に解釈を委ね、読者自身が自由に読み解くスタイルが多いのに対して、本作品はダイレクトに登場人物たちの憂いや戸惑い、時には不満や本音まで語られています。

彼らが何を思っているのか、何に心が動いたのか、細やかな描写に読者は作中に登場するマンガ家やマンガ編集者の思考を辿ることができるでしょう。

登場するマンガ家は、かつて輝いていたが空っぽの作品しか描けなくなったことにもがいている大御所マンガ家や、繊細な感性をうまく表現できず連載を打ち切られてばかりのマンガ家、パートの仕事に精を出す、かつては勇ましく血気盛んな作品を描いていたマンガ家など、普段は伺い知れないマンガ家という人たちの「生活」や「家庭」、そして「素顔」がリアリティたっぷりに描かれています。

時代の風をどう読むのか!?

この作品の時代背景は、少し前に感じる方もいるかもしれませんが、まさに「今」を舞台とした作品です。マンガそのものの描き方・読み方が違う縦読みマンガの出現や、紙ではなくスマホやアプリで読むなど、マンガを読むスタイルも急速に変化してきました。

時代や自分自身の変化を感じながら、編集を担当する塩澤や、塩澤が声をかけている「前時代的なマンガ家たち」が、新しい紙のマンガをどう作っていくのか、そこに松本大洋先生の「メッセージ」がどのように描かれるのか、続きをしっとりと追いたい作品です。

執筆:ネゴト / みじんこ

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