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『SAKAMOTO DAYS』少年ジャンプの新境地、日常系アクションコメディを味わう

『週刊少年ジャンプ』で鈴木祐斗先生が連載している『SAKAMOTO DAYS』。このマンガを気に入った理由のひとつは、タイトルがもう他には考えられないほどぴったり! と思えるところだ。

見ごたえのあるアクションシーンや、回を追うごとに強敵が現れる構成。「そうそう、ジャンプではこういうのを読みたいんだよ」と思えるものがしっかりと描かれている。それでありながら、あくまで主人公・坂本太郎(サカモト)が送るおかしみのある日常(デイズ)が本作の根幹をなす、なんとも不思議なマンガである。

SAKAMOTO DAYS 著者:鈴木祐斗

殺し屋が家族を持ったその先

アクションマンガでは、主人公が強くなるため戦いを挑んだり、突如出現した怪物と戦ったりするのがセオリー。自発的にせよ緊急事態にせよ、それまでの日常から非日常へと突入した主人公が少しずつ強くなっていく。

一方、坂本は物語の冒頭から「最強の殺し屋」として登場する。さらには家族ができたことで殺し屋を引退して商店を営んでいる。この非日常から日常へと離脱した主人公は、家族と過ごす何も起こらない日々の愛しさを知っている。

坂本を狙って殺し屋の組織が動き出したり組織と対立する集団が現れたりするが、彼にとっての懸案事項は、娘が欲しがるランドセルを手に入れられるかどうかであり、妻とのデートを成功させることであり、商店街の催しで優勝することである。

最強の主人公はユーモアになる

本作はまずアクションマンガとして非常に骨太だ。バトルシーンは何が起こっているのかわかりやすく、構図も凝っていてかっこいい。動きのスピードや攻撃の重さも感じられ、アクション映画好きを公言する作者の気概がひしひしと伝わってくる。

そこでさらに、もう一本の軸であるコメディ要素が本作を特別なものにしている。坂本は「人を殺さない」という妻との約束を厳守し、どれほど壮絶なバトルでも夕飯に間に合うように帰る。仲間を含めた「坂本ファミリー」のくだらなくもあたたかいやりとりに、じんわりと心がゆるんでいく。

考えてみると、坂本が最強なのは必然にも感じる。最強の主人公は見ていて安心するからだ。ジャッキー・チェンのアクション映画が笑えるのは、やっぱり彼が強いことが大きな要因になっていると思う。強さが余地を生み、ユーモアや癒しをもたらしているのだろう。

少年ジャンプの新境地

2015年頃からの少年ジャンプで多く見られる、仲間すらサクッと退場してしまうスピーディーな展開のバトルアクションを読んでいると、花火大会に来たような気分になる。ひっきりなしに打ち上がる花火を見るように、刺激的な物語を読むことに正直なところ少し疲れが出てきたなあと感じていた。

そんな私と同じような人が、今ちょうどいいリズムで楽しめるマンガが『SAKAMOTO DAYS』なのかもしれない。正統派アクションマンガでありながら、日常に焦点を合わせた物語としても笑えてジンとくる。ありそうでなかった少年ジャンプの新境地をぜひ味わってほしい。

執筆/サトーカンナ(https://twitter.com/umaicupcakes

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