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『三拍子の娘』ワルツみたいな暮らしが、私たちを強く守ってくれる

「三拍子」と聞いて、思い浮かべるのはワルツのこと。円を描くように回りながら淡々とテンポよく踊るための音楽として作られたことから、日本語では「円舞曲」と呼びます。

三拍子の娘』に出てくる長女すみ、次女とら、三女ふじの三姉妹は、3人で1つの単位をなす自分たちのリズムで軽やかに暮らす術を身に着けた人たち。彼女らのワルツのような暮らしとはなんなのか、そんな日々が3人をどこへ連れてゆくのか。

作者 町田メロメ先生のさらりとしたタッチと大胆なコマづかい、言い得て妙な台詞の数々が心地よい本作。黒と白と桃色で描かれる世界の断片をご紹介します。

三拍子の娘 著者:町田メロメ

恨みつらみは隣に置いて

三姉妹には両親がいません。母親に先立たれた直後、父親が三姉妹を置いて家を出ていったのが10年前。両親を一気に失った3人の悲しみは計り知れず、とくに当時高校3年生で急に親の代わりを務めることとなった長女すみの、勝手すぎる父親への怒りは今でも褪せることはありません。

しかしそんな記憶がいつまでも三姉妹を支配しているわけではなく、彼女たちには目の前の暮らしがある。それぞれが仕事の締め切りや繁忙期、進路にウンウン唸りながら、日々食べるものに気をとられたり、くだらない会話に笑ったり呆れたりしているうちに、転がるように毎日が過ぎていきます。そしてまさにそのことが、彼女たちを守っているのです。

両親が残した唯一の幸せ

『三拍子の娘』のなかでは、非現実的なことや大事件は起こりません。台風の夜に映画を見るとか「マルセイバターサンド」がうまいとか、そういう”普通のこと”が続いていきます。その普通を3人で分かち合うからこそ、愛おしい時間になっていくのです。

圧倒的な「個」の時代に、寄りかかれる姉妹が2人もいることは両親が彼女たちに残した唯一の幸せと言ってもいいかもしれません。

生活の強さを信じる

三姉妹のように肉親を失った経験だけでなく、誰にも言えないような心身の傷があったり、人間関係に深い問題を抱えていたりと、人がそれぞれ持つ悩みの深さはその人にしかわからないものです。

やりきれない苦しみそのものをどうにかすることはできないけれど、誰かの何気ない一言に救われたり、だいすきな草花を眺めたり、甘くておいしいものに心を奪われたりすることはできる。決まったリズムで円を描く毎日をただ淡々と、しかし楽しく踊るように暮らすことは、想像以上に強く私たちの心を守ってくれます。

『三拍子の娘』はそういう生活の強さを、まさに淡々としたトーンでテンポよく描いた作品。三姉妹がこれからも軽やかに生きていけることを願いながら、あなたも目の前の暮らしを見つめてみませんか。

執筆/サトーカンナ(https://twitter.com/umaicupcakes

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