成功したオタクが織りなす異色群像劇『ミワさんなりすます』
図らずも推しに遭遇したり、推しに憧れて芸能人になるなど、運よく推しに近づけたファンのことを韓国では「ソンドク(成功したオタク)」と呼ぶように、それは一種のステータスとしてポジションになりつつある。
『ミワさんなりすます』(青木U平)はまさに”成功したオタク”が主人公の物語。ある日突然、推しの家政婦として働くチャンスが舞い込んできたら、あなたはどうするだろうか?
今日から推しの家政婦
主人公は、映画をこよなく愛するフリーターの久保田ミワ。映画好きが高じて、レンタルビデオ屋でアルバイトをするものの、人付き合いやコミュニケーションが苦手な彼女はクビになってしまい途方にくれてしまう。
そんなある日、ミワは推しの国民的俳優・八海崇が家政婦を募集していることを知り、居ても立っても居られず独自に調べた情報をもとに八海邸に足を運ぶのだが...。なんと、同じタイミングで八海邸に訪れていた新しい家政婦が事故に遭ってしまい、ミワは運が良いのか悪いのかその家政婦と間違えられ、八海崇の新米家政婦として八海邸に足を踏み入れることに。
こうして、突如”推しの家政婦”というドリームを掴んだ一方で「なりすまし」というとんでもない爆弾を抱えるミワ...。『ミワさんなりすます』は、そんな成功したオタクなミワと彼女の推し・八海崇が一つ屋根の下で繰り広げる群像劇を描いた作品だ。
恋愛?ギャグ?シリアス?...異色群像劇
ミワの目線を通して描かれる推しの八海崇という存在、そして仕事の束の間に訪れる彼との逢瀬はドラマチックで、まるで恋愛映画のよう。けれど、絶妙なバランスでミワの「なりすまし」がバレずにまかり通っている様子は、思わずくすりとしてしまうようなギャグ要素が詰まっている。ミワの秘密がいつバレるかわからず、作中に終始漂う緊張感もたまらない。
恋愛、ギャグ、シリアスと一つのジャンルに括れない、多様な一面を見せる本作はまさに異色。また、作者・青木U平先生の過去作『服なんて、どうでもいいと思ってた。』『マンガに、編集って必要ですか』と比べ、本作ではメリハリの効いた劇画タッチと、登場人物たちのきめ細やかな表情の移ろいが際立ち、読んでいて思わず引き込まれてしまう。
ミワが映画マニアということもあり、作中に散りばめられた映画ネタも秀逸。映画好きなら思わず反応してしまうであろう、各章のタイトルや作中のセリフにもぜひ注目してみてほしい。