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私たちは怒りに慣れすぎている。『ジーンブライド』で気付く隠してきた心のあり方。

数年前、私は痴漢を捕まえたことがあります。

電車の中で痴漢の手を掴み、そのままホームに降りて現行犯逮捕。駅員室に入り、警察を呼ばれるという、まあまあ緊張する展開が続いた夜となりました。その時に一番ドタマに来たのは、意外にも痴漢本人に対してではありませんでした。Facebookに「痴漢を捕まえ、いま駅員さんの事務所で警察がくるのを待っています」と書き込んだところ、知り合いから「冤罪に気をつけて」ってコメントが入ったのです。

冤罪に! 気をつけて!!

直接何度も会ったことがある知り合いからの、この言葉。「は???」ってなりましたよね〜!! 何度思い出しても新鮮に怒りが湧きます。今もSNSで普通につながってるから、この記事本人も読むかもしれないけど別にいいや。

痴漢を捕まえるのって、めっちゃ勇気が必要なことだったんですけど! なのに言うに事欠いて、「冤罪に気をつけて」とは、一体どういうつもりなのか!?!?

そんな怒りをですね、すごーーく思い出させてくれる作品に出会いました。それが『ジーンブライド』です!

ジーンブライド 著者:高野ひと深

男性にこそ読んでほしい『ジーンブライド』に描かれた女性の日常

主人公の諫早依知は、仕事に真剣に取り組めば取り組むほどに、女性としての生きづらさに直面する現実に辟易しています。取材相手の映画監督には「若い美しい女性」というだけで真剣に答えてもらえません。男性同伴で取材をするとスムーズに話が進むのに、男性が席を外したすきに、初体験の年齢を聞かれるなどということも…依知は、そんなことが起きるたびに怒りを感じつつも、現実と折り合いをつけながら生きていきます。

分かる…分かりすぎる…!! 私も女子中・女子高・女子大で育ったこともあり、通学路での痴漢や露出狂、自慰行為を見せつけてくる男性など、多すぎてぶっちゃけ慣れっこになっていました。思春期だった私たちは、それをネタにして笑うという処世術で生きてきました。泣いたって怒ったって痴漢は減らない。ならネタにして笑うしかない。そんな諦めの境地にいつの間にか自然とたどり着いていたのです。

『ジーンブライド』では、そんな女性たちの生きづらさが、鋭いペン先で浮き彫りにされています。自分たちがいかに怒りに慣れてしまっているのか、そんな現実に改めて気付かされてしまう作品なんです。女性がどういう日常に慣らされてしまっているのかを、男性にこそ読んでほしい作品でもあります。

女性の日常を描く『ジーンブライド』、実はSF作品!?

はっ! いけない!! 怒りを刺激されるだけの作品だと思われてしまいかねない! この作品は女性の生きづらさについて声を上げているにとどまらない、とんでもない要素が潜んでいるのです!

『ジーンブライド』は、実はSFマンガなんです!!

ある日、依知の前に「きみの運命の相手だった男だ」というパワーワードを放ちながら、高校時代の同級生・正木蒔人が登場します。彼は、依知の「ジーンブライド」の相手だった男性。正木を通して男女の生きづらさがよりくっきりと表現されたりもするのですが、実は依知との会話の中に、SF要素がさりげなく、どんどん色濃くまぶされていくのです。

ジーン=遺伝子、ブライド=花嫁。そして、たびたび登場する「霧」とは何なのか。1巻の最後には一気にそのSF濃度が増し、「えええ!? ど、どういうことなの!?」と驚愕の渦に巻かれます!

目をつぶってはいけない怒りを思い出させてくれ、かつ良質のSF作品のドキドキに身を任せることができる作品『ジーンブライド』。どんどん話題になっていくこと間違いありません。マンガ好きの皆さん、必読です!!

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