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どこまでも古着を語る『ビンテイジ』はただの「古着マンガ」じゃない!

今作『ビンテイジ』の主題はあくまでも「古着」です。そして「古着」というのは必ずしも間口の広いテーマではないかもしれません。しかしそこに「青春」や「恋愛」「家族」というテーマが加われば話は別。どのような人にでも鋭くつき刺すことができる強さと広さをもった物語へと変貌するのです。

そうやって点在するいくつかの主題を、どれひとつとして濃度を落とすことなくわかりやすく、まっすぐで、どこまでも情熱的に読者にぶちこんできたのが今作『ビンテイジ』という作品なのです。

ビンテイジ 1巻
ビンテイジ 赤堀君

失敗した大学デビューと古着との出会い

主人公の春夏冬 榮司(あきなし えいじ)は、童貞を卒業するという大いなる目的のために大学デビューをもくろみ、何度となく合コンに奮闘するものの、ちっともモテる気配はありません。

そんなとき、かわいくておしゃれな女の子に出会います。そして彼女が古着を好きなことを知り、興味を持ちます。しかし実は榮司の亡くなった父親は、古着好きなら知らない人はいない伝説的バイヤーと賞賛される存在でした。父親は存命中、榮司にやたらと古着のことを熱く語り、古着の良さを知ってもらおうとしていましたが、そんな父親の行動が思春期の榮司には理解できず、古着自体に苦手意識を感じていたのでした。

「古着マンガ」でありながら「古着」は出汁に過ぎない

『ビンテイジ』を描く赤堀君先生は元古着屋という経歴を持っています。そのためさまざまな古着の態様や、それらがもつ膨大な情報、そして流通や買いつけなど古着を売る側の描写などにもリアリティがあふれています。単に古着に関するうんちくだけでもかなりの濃度です。細かいロゴやぬいかたの一つ一つに時代があり、意味がある。だからこそそこに価値が生まれる様を丁寧に描いてくれています。

古着自体には興味がない人であっても、まったく洋服を着ずに暮らすことはできません。自分が何気なく着ていたもののなかにも意外なルーツがあることを知ることができるのは、望外の楽しさになるのではないでしょうか。

しかし今作『ビンテイジ』のもっとも強い主題は、そんな濃度で語られる古着ではありません。なにかを好きになることでこれまで見ていた世界が広がること。興味を持つことで新しい一歩を踏み出せる勇気をもらえること。さまざまな物事を深く探っていくことで楽しさが何倍にもふくれあがること。そんな「なにか」を好きになることの尊さこそがこのマンガの最大の主眼なのです。

女の子の魅力にひかれて一歩踏み出すのはひとりの男性として正道です。そしていつしかそこからモノの魅力のほうが勝ってしまい、女の子が次第に二の次になっていく様など、まさに青春マンガという描きかたが最高です。それもこれも、その根底にある「なにかを好きになること」の尊さが描けているからこそ。自分の本当の欲求を真摯に見つめなおす主人公のまなざしにいやおうなしに共感してしまうのです。

ですから今作の主題は必ずしも古着でなくとも成立したのではないかと思います。でも「古着」という間口が広いとは言えないテーマによりせばまった濁流が、そんな普遍的なテーマで料理されたときに、その爆発力は何倍にもなり、おおきなカタルシスにつながっているのです。

なにかを好きになる感情を後押ししてくれる!

タイトルからして『ビンテイジ』ですし、たしかに古着は本作の大事なテーマのひとつです。でも「古着のマンガか。古着には興味ないからな……」なんて思って手に取らないのは非常にもったいない。これまでに自分のなかにくすぶっていた「好き」という感情を後押ししてくれる、そんな人生の道しるべになりえる作品です。ぜひ、読んでみてください。

執筆:ネゴト / たけのこ

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