『8月31日のロングサマー』終わらない彼女への思いと終わらないあの夏の一日
夏の恋は長続きしない!? ひと夏の恋などと言われてしまう夏の恋ですが、もし終わらない夏があったら? 夏休み最終日の8月31日をループする高校生の男女を描いた『8月31日のロングサマー』は、伊藤一角先生が描くタイムループラブコメディです。モーニングで連載開始から話題となった本作は、待望のコミックス第1巻が2023年8月23日に発売されました。ループが恋に与える効果とは? 恋を真正面から描く本作の魅力をご紹介します。
ふたりだけの終わらない夏!?
8月31日の午後1時、待ち合わせ場所の公園で待っているのは男子高校生の鈴木鷹也。そこへ現れる女子高生の高木佳夏。
『8月31日のロングサマー』©伊藤一角/講談社 第1巻/ 第1話より
こんな会話ではじまるふたりの毎日は、夏休み最終日となる8月31日を繰り返して早1ヶ月続いています。記憶以外は0時になると全て戻ってしまい、記憶を繰り返せているのは、今のところふたりだけ。
やり残したことへの強い未練が引き起こすと言われるループですが、伊藤は一つの仮説に辿り着きます。
「ループの原因は僕の「未練」=彼女を作って童貞を捨てること」
ループを繰り返す一日で鈴木の「未練」を解消できるのは、高木だけ!? ふたりだけの夏は終わりを迎えられるのでしょうか。
「キモさ」と「きゅん!」は紙一重
強い未練や後悔といったものがループの原因となることが多い中、本作では大事故や大事件は起きません。でも女性のことがわからなくて童貞である鈴木にとって「恋をすること」は、ループを引き起こすほど人生の一大事! ふたりの恋を中心に話は進んでいきます。
女子高生らしくそれなりに恋愛経験を積んできた高木は、大胆になったり、恥じらったり、その表情や言動の豊かさに鈴木だけでなく読者をも好きにさせます。対して鈴木の言動は、真面目で素直故に「キモ!」と突っ込まれることも。
『8月31日のロングサマー』©伊藤一角/講談社 第1巻/ 第2話より
でもその言動は直球ど真ん中。あれれ、私きゅん! としてる。高木も読者もいつの間にか鈴木を「あり」と思っていることに気がつきます。
ループが恋に与える効果
連載開始時、ループ×ラブコメって続くのかな…。正直そう思っていました。すみません!本作は1巻を読むだけでも尻上がりにおもしろくなっていきます。
ふたりのテンポよいやり取り、ループを脱出するための行動、登場人物が増えることで魅力が増す中、ループの効果によって、ふたりの恋がじわじわと盛り上がっていきます。
消えてしまう「好きだ。」という文字。思いやりの欠けた自分勝手な行動。
『8月31日のロングサマー』©伊藤一角/講談社 第1巻/ 第3話より
「消えて欲しくないのに消えてしまうもの」と「消えて欲しいのに消えてくれないもの」の対比がうまく描かれています。
残しておきたい言葉や思い出は目に見える形では残らず、お互いの記憶の中にしか残せない。そして忘れたい自分勝手な行動もリセットされず、お互いの記憶の中に残ってしまう。後悔してもリセットされないし、出会う前に戻ることは出来ません。
ふたりはループを繰り返すことで、ぎゅっと濃縮した恋を体験していきます。恋を真正面から描くために、ループを効果的に使っているところが、読者を引きつける本作の魅力です!
9月1日を迎えるためにふたりが出来ることは?
実は鈴木くん、もう一つ仮説を立てています。
『8月31日のロングサマー』©伊藤一角/講談社 第1巻/ 第1話より
童貞を捨てるという「関係性を築かなくても叶えることができる望み」ではなく、恋をして相手のことを知り「明日も続いていく関係性を築くこと」はとても難しいことです。でもそれが恋なんですよね。
恋の楽しさや幸せ、恋の辛さや後悔する気持ちを知ってもなお、ふたりは明日も待ち合わせができるのでしょうか? ループが終りを迎える理由はまだまだわかりません! 一緒にふたりの恋の行方とループの終わりを見届けませんか。
執筆:ネゴト / Ato Hiromi