【フースーヤ・谷口理と漫画】どんなに大人になっても「ジャンプ」がずっと少年でいさせてくれる
「芸人と漫画」は、漫画好きの芸人のみなさんに漫画との付き合い方をじっくりと聞く、紹介リレー形式のインタビュー連載です。
今回は、紅しょうが・熊元プロレスさんが「存在自体が少年漫画のような人」と紹介してくれたフースーヤの谷口理さん。とにかく「週刊少年ジャンプ」がだいすき! という谷口さんによる、空間が急に学校の教室になったようなアツすぎるしゃべくりインタビューです。
▼吉本興業・フースーヤ 谷口理(たにぐち おさむ)
1993年生まれ、兵庫県出身。NSC大阪校38期生として入学、2016年に高校の同級生・田中ショータイムとコンビを結成。大阪・森ノ宮よしもと漫才劇場にて「週刊少年チャクチ」と題し芸人たちと作品愛を語るイベントを主催するほどの少年漫画好き。
「1LDJ」の家に住みたい
――事前にいただいた情報では、もうとにかく「週刊少年ジャンプ」ということで。
谷口:はい! 小学校からずっと毎週読みつづけてます。ジャンプ歴20年くらい。
――それはすごい! 漫画を読みはじめたきっかけは覚えていますか?
谷口:お父さんもお兄ちゃんも漫画が好きで、家の本棚にいっぱいあったので、物心ついたときから少年漫画に親しんでいって。
「僕の名前の おさむ も手塚治虫さんから来てるんです」
小学校入るとジャンプ買ってる友達がおるから、そいつん家行って毎週読んで、中学校からは自分で買うようになりましたね。
――少年漫画誌にもいろいろありますが、関心はジャンプに集中していたんでしょうか。
谷口:他の雑誌も有名どころはかじってるけど、やっぱりジャンプ。高校生になると友だちがチャンピオンとかマガジンを読むようになって。「マガジンかっこいいな」みたいな時期もあったんですけど、熱が入るところはジャンプ作品に戻っていくんですよね。
――それはなぜなんでしょう?
谷口:わかんない!(笑)でもジャンプという看板だけで……ってのはあると思います。お笑いでいう「吉本」みたいな、その看板を信用してる。
――ああー、なるほど! ジャンプ作品のなかでもルーツを選ぶとすれば何になりますか?
谷口:よくある「一番好きな漫画は?」って質問に『ONE PIECE』って言わへんのはもう嘘やなって。シンプルに、小学校から今まで一番長い間、毎週欠かさず僕を楽しませてくれてる。
――それだけ長いと、もう家族に近い距離感ですよね。
谷口:そうそう。だから一番はどうしても『ONE PIECE』になってしまう。これは殿堂入りと言っちゃっていいかもしれないですね。
――ジャンプはずっと紙で買っているんですか?
谷口:はい! 家の冷蔵庫の横に冷蔵庫よりでかいジャンプの山があって、それでも3~4年分くらい。ほんまに泣きながら捨てますね。
――生活スペースがないくらいに溜まっている?
谷口:そうなんです。だからもう次は「1LDJ」みたいな家に住みたいっすね。キッチンなしでいいからジャンプ置くスペースがある家……リビング、ダイニング、ジャンプ!
――1LDJ!(笑)めちゃくちゃいいフレーズ!
歯を食いしばって戦うのがジャンプ漫画の魅力
――最近読んでいて好きな作品はいかがでしょうか?
谷口:いま自分のなかでホットなのは『SAKAMOTO DAYS』、『アンデッドアンラック』、ヒロアカ(『僕のヒーローアカデミア』)、『キン肉マン』あたりですね。
――やはりすべてジャンプ・コミックス。
谷口:『SAKAMOTO DAYS』は、アクションシーンだけで言ったらドラゴンボールとかワンピースに勝るんじゃないかっていう。脳内で絵が動くんですよね、映像として再生される。
今までの漫画にはないアクションを見せてくれるからワクワクが止まらない。電車とか遊園地のシーンなんですけど……(※ネタバレのため写真のみでお届けします)
「ブァーン!なって、ドカドカドカドカー!!」
――すみません、文面には載せられないんですが、ものすごい迫力が伝わってきました!
谷口:ほんと漫画やなーって。漫画でしかできないカッコよさとアホさ。実写だとまた雰囲気変わるやろうし、漫画で見たいから、逆にあんまりアニメ化してほしくないとか思っちゃいますね。漫画ならではの「バカバカッコイイ」感じが痺れる。
――では、漫画にはアクションシーンを期待している?
谷口:なんすかね。アクションを見たいっていうより、うおーっとなるアツい展開ですかね。新ワザが出るとか、ここでコイツが助けに来るかー! とか。
――なるほど! 他にルーツ作品として『火ノ丸相撲』や『みどりのマキバオー』を挙げていただいていたのですが、どちらも主人公が「体が小さい」というハンデを抱えながら戦う成長物語ですよね。そういうのも「アツさ」に含まれるんでしょうか?
谷口:そうですね。逆境を覆していくとか、歯食いしばって頑張るみたいな話がたぶん好きなんですよね。あのね……今日も広めたい漫画持ってきたんですけど。
すべてにビニールが! 新品だ!
好きなシーンのある巻を買ってきてくださいました
――あっ、買ったんですか?
谷口:僕ちょっと潔癖もあって、家にある漫画はもう絶対汚さず読むことにしてるんです。
――えー! わざわざすみません! たくさんありがとうございます。
谷口:いいんですいいんです、広める用なんで!
――いやあ……大事にされてるんですね。
「家のはこうやって取って読んで、最後表紙を拭いて戻します」
谷口:それでね、ヒロアカのなかでオールマイトっていうキャラがいて、そいつのパワーが衰えて戦えない状況になっちゃう場面があるんです。そこで敵の親玉が出てきてもう無理かなっていうときに、オールマイトが歯食いしばって、おしりにぐっと力入れて戦う。そういうのを見てると「頑張れえーっ!!」ってなるというか。
『火ノ丸相撲』とか『みどりのマキバオー』も、身体がちっちゃくてもうあかん……ってとこで主人公たちが「ウオオオ!!!」って戦う。やっぱそこで「頑張れ! ん頑張れええーーーー!!!」って。
「ん頑張れええーーー!!!」本気の絶叫中
――あっはっはっは(笑)
谷口:そういうシーンっすわ、ジャンプってそれですわ。今気づきました、ジャンプのそこが好き。自分のプライドだったり、家族とか大事なもんだったりを守るために、ウウウァァァアア!! って言いながら戦う感じが、ジャンプの漫画には詰まってるんです。
『火ノ丸相撲』はアツい展開がうますぎる
――数あるジャンプ作品のなかで、今回は『火ノ丸相撲』を「この一冊」としてピックアップしてくださいました。
谷口:相撲っていうテーマ、正直はじめは男でもとっつきにくいと思うんですよ。サッカー、野球みたいな人気スポーツでもないし、いわゆるバトルものでもない。それでも川田先生の漫画の描き方、読者をたぎらせる力っていうんですかね。そういう上手さで、つい読み進めちゃうおもろさを伝えたくて。
漫画の専門的なことは何も知らないですけど、読ませる手法を熟知してんねやろなって。例えば必殺技出すときのアツい演出のしかたがうまいのが、素人目でもわかる。相撲漫画やのにジャンプっぽさも大事にしてるんですよ。
この場面の……と語る谷口さん、完全に中学生の顔
――あんまりリアルすぎないというか、ちょっとファンタジー要素がありますよね。
谷口:そう! それがあることでみんながアツくなれるし、読みやすくなる。これはめっちゃメタな視点ですけど、5対5の団体戦の負けられない試合があって、先に敵チームが2勝する。そしたら「つぎ絶対、味方チーム勝つやん」って思っちゃうやないですか。そうじゃないと主人公の試合までたどり着かへんから(笑)
――たしかに。
谷口:でも『火ノ丸相撲』は、それを忘れさせられるっていうか。いざ3試合目が始まったら、もう前の2戦忘れてるんですよ。やばいやばい、うわ、どっちどっちどっち!? ……勝ったー!! ってなる。
――あーっ、本気で「負けそう!」と思ってしまうんですね。
谷口:そうそう。展開がうますぎて、ほんまに試合を見てる感覚というか。あとね……いやーネタバレになってまうな。もう切ってもらっていいんでしゃべりますね?
長尺で数々のアツい試合を再現してくれましたが
本気のネタバレなので泣く泣く割愛しました
どのシーンもすごいわ。ほんまに痺れましたね! すんません、読者のみなさん!
――ずっとフルスロットルでお話しいただいて……まさに漫画を読んでいるようでした(笑)
「ほんまネタバレばっかでごめんなさい!」
頭のなかのキャラたちが励ましてくれる
谷口:あとは今日持ってきた『火ノ丸相撲』26巻、主人公の兄弟子・冴ノ山の話で。この人ってね、試合前のルーティンがめっちゃあるんですよ。
でも弟弟子がひたむきに頑張っているのを見て、自分が間違ってたなって思う。自分がルーティン、つまり運に頼ってるのって、今までやってきた練習とか実力に100%自信がないって言ってるようなもんやって。で、ルーティンを全部やめるんです。
――なるほど。
谷口:たしかに僕も験担ぎみたいなことをして賞レースに挑んだりしてた。だからネタに100%自信をもって頑張ってこう! と思いながら食ってた飯が、カツ丼やったんすよ……。
――あはははは(笑)無意識で。
谷口:まだまだ験担いでるわって(笑)でもそういう考え方とか、無理やな、ダメやなってときもあきらめない精神は、漫画からもらった。昔から我慢強い方やとは思うんです。アイツも歯食いしばってたな、ここで倒れてるようじゃあかんって。頭のなかのジャンプのキャラたちが「頑張れよ」って言うてくれるんすよ。
――漫画好きとしてよくわかります……素敵なお話をありがとうございます。
『キン肉マン』はどこからでも読みはじめてほしい
――『キン肉マン』はかなり昔からある漫画ですが、いつごろ出会いましたか?
谷口:『キン肉マン』はたぶんお父さんの世代くらいやと思うんですけど、僕の入りは『キン肉マンII世』なんです。小学生の頃にアニメをやってて。
II世見てるうちに、初代の『キン肉マン』ってどんなんなんやろって興味もって読んだらどハマリしたんです。
――どんなところにハマったんでしょうか。
谷口:一番はキャラクターの個性ですね。一人として似たようなキャラがいない。キャラクターの幅に限度がなくて、みんな魅力的なので飽きないんですよ。そいつらが全員ちゃんとアツいし強くて、個性的なキャラが個性的なワザをどんどん出すのがたまらん。
――先ほど「今アツい」として挙げてくださった理由はどのあたりにありますか?
谷口:『キン肉マン』最終回からの後日談的なのを今「週刊プレイボーイ」で連載してて、それがおもろすぎるんですよ。『キン肉マン』のときに出番が少なかったキャラをもう一回出して活躍させたり、作者も忘れてるような設定を復活させたりとか、ファン大歓喜の展開になってるのが今のキン肉マン。今が一番おもしろいんですよ!
――じつは『キン肉マン』シリーズを読んだことがないのですが、今連載中のものをいきなり読むよりは、イチから読んだほうがいいですか?
谷口:いや、僕も『キン肉マンII世』から入ったくらいなんで。キャラから入れるのもキン肉マンのいいところなんです。ゲームとかアニメで知ったキャラがかっこいい、好きっていうので「そのキャラの試合から読む」とかもできちゃう。どこ切り取ってもおもしろいから、どこからでも入れるんすよ。
谷口さんのお気に入りは60巻
――長い漫画に抵抗のある人もいるので、そのアドバイスはすごくいいですね。
谷口:そこを切り取って読んでたら、今度はこっちのキャラ誰なんやろ? ってどんどん知りたくなって読み広げてしまうと思います。
漫画がずっと明るい少年でいさせてくれる
――各作品、シーンを再現しながらたくさん語っていただきありがとうございました! 最後に、これまでとこれからの谷口さんの漫画との付き合い方について教えてください。
谷口:お笑い芸人として毎日仕事させてもらってますけど、漫画がずっと僕を少年でいさせてくれるっていうか。漫画が家にあって、毎週ジャンプが出るから、いつまでも小学校、中学校のときの心を忘れさせないでいてくれる。
谷口さんのお気に入りは60巻
漫才とかギャグでも、バカバカしいことをしたい。大人になって冷めちゃうんじゃなくて、意味のないことで笑える小学生の心を大事にできるっていうのは、ずっと漫画がそばにいてくれるからやなって思いますね。
――たしかにネタも少年らしさがありますよね! わかりにくいものにしないというか。
谷口:そうっすね、うまい漫才よりも、バカバカしいことで小学生から大人までみんなに笑ってほしい。周りの人に「谷口、子どもやなあ」ってよく言われるんですけど、子どものもってる明るさみたいな部分は、漫画のおかげでなくならないんだなと。
――大人になると「明るくいること」って本当に難しいですよね。
谷口:漫画がなかったらもっと悩んだり、しんどかったりすると思う。ほんまに落ち込んでも引きずらないでいられるのは、漫画があってくれるからです。
終始楽しみながら漫画への思いを語ってくれました
――長い間、人生をともにしてきていますもんね。
谷口:はい、これからも絶対に漫画を読むことはやめないし、新しい漫画が出てくるのも楽しみ。こんな大好きな漫画に、まだまだこれからも出会える。今から10年経ったときに、ここに並べたような漫画がきっとまた別にあるんやなって思ったら楽しみでしゃあないですね。
――30年後にまた同じインタビューをやったらどんなラインナップになっているんでしょう?
谷口:意外とまったく変わってないかもしれない(笑)またおんなじ漫画持ってきて「やー、やっぱこれなんすよ」って。
――それもいいですね! 最後に、何か言い残したことはありますか?
谷口:漫画家のみなさんのことをほんまに尊敬してます。これからもこのすばらしい漫画文化が途絶えないように、僕も漫画を読みつづけます。
――愛にあふれたお話をありがとうございました。
谷口:ありがとうございました!