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『漫画版 ファミコンに育てられた男』父親に捨てられた孤独な彼の寂しさを埋めたのはゲームだった

父に捨てられ孤独だった少年時代の彼を、救ってくれたのはファミコンだった。ゲーム芸人・フジタさんの壮絶な半生を綴った書籍『ファミコンに育てられた男』のコミカライズは、寂しさを埋めるための趣味も突き詰めれば将来の自分を救うものになることを教えてくれる。

漫画版 ファミコンに育てられた男 フジタ(著)/絶牙(著)

一人っきりの僕の唯一の相手「スペランカー」

フジタさんは小学生の頃、母親を亡くしてひとりぼっちになってしまった。父親は外に作った女性のところに、歳の離れた兄もほとんど家に帰ってこなかった。一人きりの家で彼の相手をしてくれるのは、当時、子どもも大人も夢中になっていたファミコンだけだった。

寂しさを埋めるためファミコンで遊ぶ彼は、ゲームから人生の本質や人間の心を知ってゆく。

「ボンバーマン」でいう”ほぼ無敵”の状態とは

父親はたまに帰ってきて、息子の生活費を家においていってくれるものの、基本的に両親が家にいないという「普通ではない」自分の状況。フジタさんは両親が揃っていて、心配なく生活を過ごせる同級生を、『ボンバーマン』の””ほぼ無敵”に例えている。

”ほぼ無敵”であることがいかに恵まれたことか、人はそれが当たり前なうちは気づけない。ファミコンのしすぎで親から怒られるというのは、彼から見ると非常にうらやましく、望んでも手に入らない恵まれた世界だったのだ。

周りの子どもが遊ばない「ゴルフ」ゲームをしていた理由

父親は、同級生の子の母親と関係を持っていて、もはやそちらが本妻という状態だった。子ども目線だとかなりエグい状態だ。それでもフジタさんはいつか父親が声をかけてくれるんじゃないかと夢見て、一人で「ゴルフ」ゲームをプレイしていた。

彼が欲しかったのはお金でも、モノでもなく、親と一緒に過ごす平和な日曜日だったのだ。

ファミコンのゲームだけが彼の拠り所で、アイデンティティの証明だった

彼が、同級生より抜きん出ることができたのは、ファミコンのプレイ時間だった。家では誰にも制限されることなくいつまでもゲームをしていられる。

攻略情報をいち早く知っていることで、彼はクラスで人気を得ようとしていた。けれど、あまりにプレイの腕が上がりすぎると一緒に競う友人が不満を持ったり、年齢が上がるにつれ女子がファミコンを馬鹿にするようになったり、一瞬、注目を浴びてもまた孤独にプレイしていた頃に戻ってしまう。他の子からするとファミコンは数ある娯楽の一つで、彼と同じくらい真剣に向き合っている子なんてほとんどいなかったのだ…。

しかし、彼だけは真剣に向き合った。そして将来、ゲーム芸人になる道が拓けた。寂しさを埋めるために始めたファミコンが彼の将来を照らしてくれた。ファミコンブームの当時「ゲームは害悪だ」なんて言われていたがとんでもない。少なくとも一人の男の孤独と未来を救ったのだから。

執筆:ネゴト / 大槻由実子

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