『ブレス』諦めた夢へともう一度手を伸ばせ!傷つき削れ、磨き上げられる若い才能の煌めき
月刊誌『少年マガジンエッジ』にて連載中の園山ゆきの先生による『ブレス』。一度は夢を諦めた二人の少年少女たちによる再挑戦の物語を描いたヒューマンドラマとして、今大勢のマンガ好きを虜にする作品のひとつでもあります。
自分の「好きなこと」と「求められること」。必ずしもイコールではない二つの狭間で、大いに悩み葛藤した経験はたくさんの人が持っているはず。
一度諦めた夢を捨てきれず憧れや理想を求め、今まさに歩み始めた二人の若き才能。彼らのドラマティックストーリーが、大勢の大人たちを惹きつけて止まない作品です。
元モデルの少年が本当になりたかったものは?『ブレス』あらすじ
『ブレス』©園山ゆきの/講談社
本作は高校1年生の少年・宇田川アイアを主人公とした物語です。
元モデルとして活躍していた彼が好きなものはメイク。元モデルとして以前はメイクを「される側」であったアイアですが、本当はメイクを「する側」のメイクアップアーティストになりたい、という本音を長年抱えて続けていました。
『ブレス』©園山ゆきの/講談社
モデルをやめた今でもメイクを「する側」への興味は持ち続ける一方で、周囲が彼に求めるのは、やはりどこまでもメイクを「される側」。高校の学園祭で開催されるファッションショーでも、彼が任命されたのは案の定モデル役。そんな彼のスタイリスト役として任命されたのが、大人しそうな長身のクラスメイト、実行委員・炭崎純でした。
『ブレス』©園山ゆきの/講談社
改めて学園祭の相談を始めた二人。その中で純はアイアのメイク好きに目をつけ、「モデル役とスタイリスト役を交換しないか」と提案します。
当初は「自分にメイクの腕なんて誰も期待していない」とそれを一蹴したアイア。ですが純の隠れた特技であるモデルウォーキングを目にし、「それでもみんな、私にモデルなんて期待してない」という彼女の言葉に思わずハッとするのです。
『ブレス』©園山ゆきの/講談社
純もまた、自分と同じように他人の期待からはみださないように生きてきた人間であったことを知ったアイア。そんな彼女の言葉に背中を押され、アイアは改めてメイクを「する側」の人間になることに挑戦します。
他者から押し付けられる役割を無視し、自分の心に正直に行動し始めた二人。タッグを組んだファッションショーを契機に、彼らの人生は少しずつ変わり始めるのでした。
「好きなこと」と「求められること」の葛藤…それでも、もう一度夢へ手を伸ばす
『ブレス』©園山ゆきの/講談社
今作の最大の魅力は、やはり自分の心に正直に、やりたいことに向かって改めて進み始めるアイアと純の姿です。
「周囲に求められる自分」と「なりたい自分」。その狭間での葛藤や悩みは、おそらく多くの人々が一度は経験したことのある感情なのではないでしょうか。
主人公のアイアに関して言えば、まだ若干高校1年生であるにもかかわらず、すでに一度その狭間で「なりたい自分」を諦めた経験を持っています。本当に好きだからこそ、それを否定されることが自分自身を否定された気持ちになる。周囲の言葉に従っていた方が傷つかずに済む。
そう考えるのは、何も彼だけに限った話ではないことでしょう。
『ブレス』©園山ゆきの/講談社
そんな彼の心変わりのきっかけになったのが、一見地味ながらも内面に凛とした大胆さを持つ純の存在です。
本当の自分を出して傷つくことをアイアが恐れる一方で、それすらも己の変化の機会と捉え、変わってゆく自身への期待と高揚感を口にした純。彼女の姿を見て、アイアもまた自身が持っていたメイクに対する純粋な憧れや希望を、心の中に思い出すのです。
一度は諦めかけた夢。それに向かって本気で走り始めたからこそ、二人の周囲には次々と自身の才能を遥かに上回る人々や、己の熱量を凌駕する才能が現れ始めます。その中で揉まれ、削られ、磨き上げられていく二人の感性。これから待ち受ける彼らの見る景色に思わず私たちもワクワクするような、そんな煌めき溢れる作品となっています!
『ブレス』©園山ゆきの/講談社