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『葬送のフリーレン』終幕から始まる物語…遺されたエルフは旅の中で人の心を知っていく

『週刊少年サンデー』にて絶賛連載中の原作:山田鐘人先生、作画:アベツカサ先生による『葬送のフリーレン』。「マンガ大賞2021」大賞、「このマンガがすごい!2021」オトコ編2位などの様々なマンガ賞を受賞した本作。今年2023年にはアニメ化も発表されています。

葬送のフリーレン 原作:山田鐘人 作画:アベツカサ

大勢を魅了するそのポイントは、やはり旅の中で徐々に価値観が変化していくエルフの主人公・フリーレンの姿でしょう。喪って初めて仲間の大事さを、人間という生き物の尊さを知ったフリーレン。彼女の本当の旅の始まりは、10年という短くも濃密だった冒険の後日譚から始まっていくのです。

数千年を生きるエルフを動かしたのは、たった10年の旅の記憶…『葬送のフリーレン』あらすじ

本作の主人公・フリーレンは、長寿の種族・エルフの魔法使いです。彼女は世界を救う勇者のパーティの一員として、10年の旅の末に魔王を打ち滅ぼし世界を平和に導きました。

勇者・ヒンメルを始めとした人間たちには長い10年も、数千年を生きるエルフの彼女にとってはたった一瞬の出来事です。

旅を終えた勇者一行は解散。冒険の後は皆、それぞれに別の道を歩むこととなりました。

それから50年後。別れ際の約束通り、再び4人揃って流星群を見る事が叶った勇者一行。ですがそれから間もなく、パーティの立役者でもあった勇者・ヒンメルは大勢に惜しまれながらこの世を去りました。

彼の葬式で、10年という短い歳月だった冒険の旅を思い返すフリーレン。

その旅は彼女の長い人生にとってほんの一瞬の、取るに足らない些細な時間だったはず。ですが当時を思い返した時、彼女の中に押し寄せたのは「なぜその短い時間で、彼の事をもっと知ろうとしなかったのか」という後悔の感情でした。

自分とは種族の違う、人間という生き物の短い生と死。かつての仲間だった彼らの命に触れて、フリーレンは人間の事をもっと知りたいと思うようになります。幸いエルフである彼女には、途方もなく長い時間が残されています。勇者一行として旅を終えた彼女は、自身を主人公とした長い長い旅路を、新たにここから始めることとなったのでした。

物語は終わりから始まる…これまでにない斬新なストーリーが話題に

本作が話題となったポイントのひとつが、物語の後日譚から始まるストーリーという斬新な物語構成でしょう。

様々な異世界モノが現在もブームとなっていますが、どれだけめでたしめでたしで終わる物語でも、お話の中で生きる人々にはまだまだその先の人生が残っています。世界を救った勇者一行も、決して例外ではありません。

ある種王道でもある、異世界でラスボスを倒し故郷に戻った勇者たちの物語。本来であれば物語の終着点から始まる今作のストーリー展開は、そのあらすじだけで大勢の読者の興味を惹きつける力のあるお話ともなっていますね。

主人公らしくないフリーレンという存在から見える、人間という生き物の尊さ

加えて魅力でもあるのが、ある種主人公らしくないエルフ・フリーレンの存在です。感情の起伏に乏しく淡々としたキャラクターですが、そこにはしっかりと長命の種族ならではの達観を孕んでいます。

その諦めを抱えてなお、情動を強く揺さぶられた彼女の「人間を知りたい」という強い思いが、この物語の肝であることは言うまでもありません。

いつの時代も一定数の憧れを集める、不老不死に近い長寿。ですがその実情はフリーレンが体現するように、様々な人々から置いていかれる孤独な存在です。そんな彼女の孤独を癒すのが、もしかしたらエルフよりずっと短い時間を懸命に生きる、人間という生き物の存在なのかもしれません。

長命のエルフである彼女には当然ながら、たった数十年の寿命しかない人間の価値観を、本当の意味で理解することは難しいでしょう。

けれど、それでもフリーレンは人間を知りたいと思います。

その思いの根底にあるのは間違いなく、自分とは違う種族・人間への愛情。そして同時に、人間が持つ価値観や感情への憧れも。ないものねだりと知りながら、心のどこかで彼女は抱えているのかもしれませんね。

執筆: ネゴト / 曽我美なつめ

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